【重賞回顧】弥生賞(GⅡ)
時代の移り変わりにつれて、各陣営のローテーションに対する考え方が変ってきました。2歳重賞の整備もあって、皐月賞・ダービーへの道程は劇的に変化してきています。
昨年は毎日杯から皐月賞へ参戦したアルアインが1冠目を獲得。レイデオロは2歳暮れホープフルSから皐月賞へ直行し、その後ダービーの栄光を手にしました。また、一昨年の皐月賞馬ディーマジェスティは共同通信杯からの直行組でした。
一昔前ならば、有力馬が本番前に同じ舞台を試走するべく集結する──それが弥生賞でした。どうやら近年は、弥生賞に対する考え方も様変わりしたようです。
その意味で言えば、2018年第55回弥生賞は頭数こそ少なかったものの、久々にクラシック級の素質馬が集まったレースでした。
牝馬路線ほど2歳チャンピオンが3歳クラシック路線に繋がらない牡馬戦線ですが、昨年の2歳チャンピオンのダノンプレミアムは朝日杯FSを文句なしの圧勝している実績馬です。先行して上がり最速33秒6は大物感あるレース内容でした。今年緒戦の弥生賞は、中山適性と距離2000mへの不安払拭がテーマです。
また、昨年11月の東京スポーツ杯で極上の切れ味をみせてルーカス以下に完勝したワグネリアンも、3戦無敗のクラシック最有力候補の1頭として弥生賞参戦です。切れ味身上のこの馬も中山適性を確かめる意味合いが強いです。
暮れのホープフルSでタイムフライヤーの2着に食い下がったデイリー杯2歳S覇者のジャンダルム。母がスプリント女王ビリーヴという良血馬ですが、こちらは母や兄弟馬から不安視される距離の壁への試金石となります。
他にもシクラメン賞をレコードで駆け抜けたオブセッション、ホープフルSで先行して4着に粘ったサンリヴァルなど、賞金的に出走権利が欲しい組も参戦。
登録数の関係から初出走のヘヴィータンクが出走してきたことも注目されたレースでした。
クラシックを展望するために交錯する、それぞれの思惑
スタートで飛び出したのは8枠の2頭、ダノンプレミアムとサンリヴァルでした。出走権をかけたサンリヴァルが積極的に先頭に立ち、後続をグングン離していきます。ダノンプレミアムは2番手からレースを進めます。やはりスピードに長けたタイプなのか、やや折り合いを欠き気味でしたが、川田将雅騎手は先を見据えてなんとか馬をなだめています。
その直後にリビーリングが続き、ジャンダルムは武豊騎手の手綱が緩んだままリラックスした走りでその後ろに位置し、ワグネリアンはジャンダルムの後ろのインにいます。こちらは折り合いを欠いているように見えますが、福永騎手が手綱を短く持ってなんとか抑えています。オブセッションはワグネリアンの直後のインに控えます。
離して逃げるサンリヴァルのペースは1000m61秒5の遅い流れ。この流れに2番手のダノンプレミアムが動きます。3角手前から離れたサンリヴァルとの間合いをジワジワと詰めていきますが、かなり馬場の外側を走っています。川田将雅騎手は悪い内側を避けつつ、他馬に被されないような進路を取っているのでしょうか。開いたインを上がっていくジャンダルム、逃げているサンリヴァルも抵抗を見せます。
インぴったりを回るサンリヴァル、1頭大外を回ってロスがありながら並びかけるダノンプレミアム、間を突くジャンダルムとワグネリアン。物見してコーナーを回りきれず外に膨れてしまったオブセッション。それぞれの思惑が中山の4角で交錯します。
直線に入ってもそのまま大外を走るダノンプレミアムが、坂でサンリヴァルを捕らえて堂々と先頭に立ちます。
追いかけるジャンダルム。
出走権確保へむけてサンリヴァルも執念を見せます──流石にスローペースなので止まりません。
その外から一気に襲いかかるワグネリアンは東京スポーツ杯で見せたような切れ味鋭い末脚です。ワグネリアンが2番手にあがったゴール前、ダノンプレミアムはすでにゴール板を駆け抜けていました。ジャンダルムがサンリヴァルを競り落として3着に入り、残念ながらサンリヴァルは出走権をギリギリで逃してしまいました。
時計は2分1秒0(良)。
前半1000m61秒5、後半1000m59秒5の緩い流れから瞬発力が試される後傾ラップでした。
全着順
第55回 報知杯弥生賞(GⅡ)3歳オープン(芝2000m)
ダノンプレミアム | ||||
ワグネリアン | ||||
○外ジャンダルム | ||||
サンリヴァル | ||||
リビーリング | ||||
トラストケンシン | ||||
オブセッション | ||||
アラウン | ||||
アサクサスポット | ||||
ヘヴィータンク |
1〜3着馬コメント
1着ダノンプレミアム(1番人気)
単勝1.8倍の圧倒的人気に見事に応えました。
スタートを決めて逃げ馬をやり過ごして2番手をとり、かなり外を回りながらも、逃げたサンリヴァルをきっちり捕らえ、後続を完封しました。朝日杯FSの走りを2000mの弥生賞でも存分に見せつける結果となりました。先行して上がり3ハロン34秒1、通ったコースを考えればこの記録は上々です。まずは1冠目に王手といったところでしょうか。
2着ワグネリアン(2番人気)
道中はあまり後ろにならずに中団で何とか流れに乗れました。折り合い面の課題は残していますが、それでも上がり3ハロン最速の33秒7は能力の証でしょう。中山コースでこの記録は本番へ向けていい試走になったようです。多頭数競馬の経験がないので、弥生賞のようにある程度の位置で流れに乗れるかどうかがダノンプレミアムを逆転するための課題となるのではないでしょうか。
3着ジャンダルム(4番人気)
血統的な距離不安は何とか払拭できたのではないでしょうか。直線で坂を上がってからが物足りないようにも見えましたが、それでもサンリヴァルを捕らえているので止まっているわけではなさそうです。3,4角でダノンプレミアムが開けたコースを突いた武豊騎手の手腕も光りました。本番でも距離ロスなく走れれば楽しめそうです。
総評
ダノンプレミアムの強さがとにかく光りました。
ワグネリアンやジャンダルムなど、タイトルホルダー相手にあれだけ距離ロスをしながら抜け出し快勝した走りは圧巻で、周囲をやや見下している感すらありました。川田将雅騎手が本番へ向けてダメージを残さないように乗っていた姿に、先々への期待の大きさを感じました。中山2000mをこの競馬で勝てたことは皐月賞を展望する上で鍵となりそうです。ワグネリアンもジャンダルムも皐月賞へ向けてのトライアルとしては上々の走りでしたので、本番の激戦が想像されます。
頭数は少なかったものの、クラシックを占える弥生賞は久々だった印象です。弥生賞の頃はまだまだ寒くて、というのが毎年の枕詞ですが、今年は春めいた陽気の中での弥生賞となりました。これもまた、若葉の季節への布石なのではないでしょうか。
青年たちの生涯一度の戦いは、さらに先へ続いてきます。
(勝木淳)
(写真:かぼす)