【重賞回顧】大阪杯(GⅠ)

大阪頂上決戦!春の中距離王決定戦、第62回大阪杯

 

上町台地の北端にある大阪城は桜の名所として有名だ。大阪城は、足軽から天下人へ登りつめた豊臣秀吉が築城した名城である。現在の城は江戸時代に小さめに復元されたものだが、かつての大阪城は、秀吉が自らの権勢を誇示するかのように畿内一円を見下ろす漆黒の巨城だったといわれている。

今から約400年前、大阪城が建つ上町台地で激しい戦いが繰り広げられた。大阪の陣である。 

大阪の豊臣家と江戸の徳川家の戦いは、戦国時代最後の大戦であり、一つの時代の終焉と江戸幕藩体制という新たな時代の始まりを象徴した戦いでもあった。

 

さて、古馬中距離戦線はキタサンブラックが有馬記念で華やかにターフを去り、ひとつの時代を終えた印象がある。 

それは決して、大袈裟な表現ではない。

GⅠ7勝、歴代最高賞金獲得馬の引退なのだから。

キタサンブラックの引退が私たちの心に与えた影響は大きい。

 

では、次代を担う馬はどうなるのだろう──そんな競馬ファンの思いに応える、それが第62回大阪杯だ。

 

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池江泰寿厩舎の4頭出しは注目せざるを得ない。古馬中距離GⅠに4頭で、それもほぼ有力馬。改めてこの厩舎がタレント揃いであることを感じる。

 

サトノダイヤモンドは昨秋に凱旋門賞へ挑戦。今年緒戦の金鯱賞では3着で、遠征後に整わなかった体調が復調気配にあることを感じさせた。今回は戸崎圭太騎手と初のコンビを組む。

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アルアインは昨年、クラシック皐月賞を勝ち、それ以後もクラシック戦線を戦い通した。残念ながら結果は出なかったが、休み明けの京都記念を2着し、改めて世代トップレベルであることを印象づけた。こちらは川田将雅騎手が京都記念から継続して騎乗する。

 

ペルシアンナイトはクラシックは皐月賞2着、ダービー7着。秋はマイル路線へ進み、マイルチャンピオンシップを勝った。休み明け中山記念は出遅れて5着、叩いた変わり身がありそうだ。テン乗りの福永祐一騎手が手綱をとる。

 

ベテランのサトノノブレスは昨秋、サトノダイヤモンドに帯同してフランス遠征。帰国緒戦の金鯱賞では2着とサトノダイヤモンドに先着している。幸英明騎手が継続して乗る。

 

「池江4騎」に対抗するのは4歳スワーヴリチャード。クラシックはダービー2着のみだったが、秋に古馬相手にアルゼンチン共和国杯を圧勝し、有馬記念4着後に金鯱賞は2番手から抜け出して快勝、自在性を見せた。昨秋以来、ずっとミルコ・デムーロ騎手が乗り続けている。

 

ほかにも、三浦皇成騎手と初コンビ結成のジャパンカップ勝ち馬シュヴァルグランが登場。AJCC組からは、勝ち馬ダンビュライトはテン乗りの浜中俊騎手、2着ミッキースワローは乗り慣れた横山典弘騎手が騎乗する。中山記念勝ちのウインブライトもお馴染み松岡正海騎手とのコンビだ。上がり馬トリオンフは今回、田辺裕信騎手をパートナーに迎える。

 

多士済々な面々が、次代を担うべく桜咲く仁川に集結した。

 

 

ゴール板に掲げられたテーマ、百戦錬磨の頂へ。

 

頂に向かう戦いは、実に静かに始まった。

 

酒井学騎手と久々にコンビを組んだヤマカツライデンが逃げるが、ペースは12秒台前半を刻む緩やかなものだった。馬群は当然ながら一団のまま進む。このペースに置かれるような馬はGⅠには出走していない。AJCC同様に番手をとったダンビュライト、3番手にウインブライト、四位洋文騎手と初コンビのベテラン牝馬スマートレイアーがつける。密集した馬群の中でどの馬も我慢比べてを続けている。古馬たちはまさに百戦錬磨、スローペースの折り合い勝負では負けない。

 

前半1000m61秒1を計測した直後のことだった。後方15番手でストレスなく走っていたスワーヴリチャードが馬群の外を一気に上がっていく。我慢比べに負けたのではない。15番手では遅い流れの犠牲になる。それを嫌い、遅い流れを逆に味方につけるべく動いたのである。

 

最近、デムーロ騎手がよく見せる必殺「2段階マクリ」だ。

 

それは、クリストフ・ルメール騎手とレイデオロのダービーに代表されるように、緩流を味方につけるべく動いて順位を上げ、そこで再び折り合ってスローペースに落とし、後方の馬より一歩先に再加速して物理的な差を作るものだ。元来、マクリ戦法とは自ら動いてペースを上げて緩流を激流に変えることを指すが、「2段階マクリ」は動いたあとに再度折り合うところがポイントといえる。

 

スワーヴリチャードのデムーロ騎手もヤマカツライデンを追い抜いたあとに懸命に折り合いをつけようとしている。

 

一度加速した馬を急に折り合わせるのは難しい。そのままのペースで走れば、ゴールまで脚は続かない。折り合おうとするスワーヴリチャードに、一緒に動いたトリオンフダンビュライトが絡んでいく。内回り2000mでは他の馬も構えていないので、ペースは落ちない。これによって突如として厳しい戦いに形相は変化した。ペースはあがり、11秒2-11秒1と3、4角で最速ラップを刻む変則的なラップになった。先に動いたスワーヴリチャードにとって厳しいかと思われた──が、しかし、直線に向いて内ラチへもたれながらもスワーヴリチャードトリオンフ以下を離しにかかる。内で馬群を捌いたアルアインが迫り、インから直線半ばで外へ出して進路を確保したペルシアンナイトも追っていく。先行していたダンビュライトも止まりはしない。「2段階マクリ」で一度は置かれたヤマカツエースが盛り返し、待機策のミッキースワローが伸びてくる。ペルシアンナイトが僚馬アルアインを捕らえて、スワーヴリチャードに追いすがるも、スワーヴリチャードが3/4馬身だけ凌いでGⅠタイトルを獲得した。

 

時計は1分58秒2(良)、前半は61秒1だったが、後半は57秒1。

その差は4秒もあった。

 

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1~3着馬コメント 

1着スワーヴリチャード(1番人気)

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金鯱賞では強気な競馬で押し切ったが、今回は一転して待機策。流れが予想に反して速くなることもあるGⅠでデムーロ騎手がよく見せる戦法です。一度、後方で様子を見て、遅いと感じれば外を押し上げる。今回は「2段階マクリ」が見事に決まりました。昨年のダービーでアドミラブルに騎乗し、外をレイデオロが動いたときにインにいて動けずに、自分も動きたかったと悔しがったデムーロ騎手。彼が素晴らしいのは、その後に「2段階マクリ」をきっちり習得しているところでしょう。右回りに不安があると言われていたが、先に動いて抜け出す戦法で直線部でのもたれ癖を相殺してみせたのも見事と言えます。最も厳しいラップを先に踏みながら最後まで走り抜いたスワーヴリチャードは、速い脚もありつつ、スタミナも兼備している新たなチャンピオンと言えます。

 

 

2着ペルシアンナイト(6番人気)

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枠なりに道中はインで我慢。スローペースの密集馬群に勝負どころで進路を阻まれながら、直線でダンビュライトウインブライトの間に一瞬で入って進路を確保しました。2着は、福永祐一騎手の判断と、瞬間的な動きができたペルシアンナイトの能力によるものでしょう。距離面の限界はあるものの、こうした変則的な流れにも対応できる器用さは特筆すべきです。

 

 

3着アルアイン(2番人気)

 

スワーヴリチャードが動くまでは理想的なレースをしていました。道中は先行勢を射程に入れる5番手前後に位置し、流れはスローペース。抜け出せば後続を離せる競馬でした。しかし外から早めに動かれたことで内で置かれる形になってしまい、抜け出すのにロスがありました。ペルシアンナイトとの2着争いには勝っておきたかったものの、今後も流れを味方につける競馬ができれば、チャンスは多いでしょう。

 

 

総評

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百戦錬磨の頂へ。

 

大阪の陣が新たな時代を象徴した戦いであったように、この大阪杯も中距離戦線の今後にとって印象に残るレースになるのではないか。スワーヴリチャードの「2段階マクリ」は見事であり、中長距離戦でありがちなスローペースで動けない競馬からスローなら自ら動く競馬へ変わっていくのではないだろうか。

 

2着以下の馬たちは、スワーヴリチャードが動いたことで、勝負どころで置かれてしまった組が多く、今回は変則的な展開に左右されたといえる。特にサトノダイヤモンドシュヴァルグランは明らかに早めのペースアップに戸惑っており、天皇賞春での巻き返しもありそうだ。 

 

今年の大阪杯は、前後半の落差が4秒もあり、最速ラップが3、4角という変則ラップだったことは今後のために是非とも覚えておきたい。

 

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(勝木淳)

(写真・かぼす)

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