【重賞回顧】桜花賞(GⅠ)

美しく、そして、強く。咲き誇れ、桜のごとく。第78回桜花賞

 

桜は不思議な花だ。芽吹いたかと思うと、いきなり鮮やかなピンク色に樹木を染め上げる。色を失った冬を断ち切るように。そして、春を告げると、あっという間に散っていく。美しくも切ない花。日本人はそんな桜を心の底から愛している。

 

母馬が命を懸けて産み落とした仔馬が牝馬だと分かると、生産者は桜の舞台を夢見るという。その夢に向かって、日々休みなく仔馬の世話に明けくれ、その成長に目を細め、期待を抱き、時には悩みながら競走馬になるべく育てていく。人を乗せることを教え、走ることを覚えさせる。そんな生産育成者たちの想いを引き継ぎ、調教師は馬の中に眠っている速く走る力を引き出していく。慎重に調教を課しながら、レースに耐えられる体と心を作り上げる。

 

みんなが夢見る桜の舞台に置かれるゲートはわずか18しかない。この18頭が揃うまでには、1頭1頭に携わる人々の絶えない努力と、同じ年に生まれた牝馬たちによる厳しい戦いがあった。

 

4月8日阪神競馬場第11レース

ここにたどり着いた18頭の牝馬たちが染め上げる桜は今年も色鮮やかで美しく、そしてどこか儚く。かなり足早に咲いてしまった仁川の桜を彼女たちの走りが再び美しく甦らせた。それはこの日までサラブレットに携わってきた人々の願いの力だろう。

 

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2歳牝馬女王でチューリップ賞を勝ったラッキーライラックは、あのオルフェーヴルが初年度から送り出してきた。石橋脩騎手にとってはクラシック初制覇の好機。管理する松永幹夫調教師は騎手時代に「牝馬の松永」で有名だった。桜花賞はキョウエイマーチチアズグレイスで2勝。桜花賞の勝ち方を知っている。

 

雨のシンザン記念で大外を豪快に伸びたアーモンドアイは、主要トライアルには出走せずに桜花賞を迎えた。ラッキーライラックとは未対戦だが、牡馬を問題にしなかったレース振りは大物感たっぷりだ。こちらも世界のロードカナロアが初年度から送り出してきた。母は2006年桜花賞2番人気14着だったフサイチパンドラ、騎手はここ2年桜花賞で屈辱を味わったクリストフ・ルメール騎手。管理調教師は牝馬3冠馬アパパネを育てた国枝栄調教師だから勝ち方は熟知している。

 

ここ2戦でラッキーライラックに連敗しているリリーノーブルが巻き返しを誓っている。こちらは父ルーラーシップ。産駒デビュー当初は疑問符もつけられたが、昨年から今年にかけて活躍馬が出現している勢いある父だ。川田将雅騎手の桜花賞といえば、大外一気のハープスター(2014年)が記憶に新しい。藤岡健一調教師は2016年ジュエラーで桜花賞を勝っている。シンハライトとの叩き合いは印象的だった。

 

リリーノーブルにチューリップ賞で先着したマウレアは、父ディープインパクト母バイザキャット、13年の桜花賞馬アユサンの全妹。年明けからクイーンC、チューリップ賞と重賞に続けて出走する厳しい道のりから桜の舞台にたどり着いた。桜花賞5勝の武豊騎手が桜花賞の勝ち方を知らないわけがない。管理する手塚貴久調教師は姉のアユサンも手がけた。

 

藤原英昭調教師が送るクイーンC2着馬フィニフティ、美浦の新進気鋭トレーナー木村哲也調教師はフェアリーSを勝ったプリモシーンを出走させる。

 

残念ながらアマルフィコーストが取消になったが、選ばれし17頭が阪神競馬場の向正面、散りゆく桜の下に置かれたゲートに入る。

 

 

1番枠をどう克服するのか。ラッキーライラックに注がれた視線

 

関西学院大学の生ファンファーレに見送られ、生涯一度の桜の舞台を踏んだ17頭。プリモシーンが出遅れ、ラッキーライラックは好スタートを切る。フルゲートに近い多頭数競馬はキャリアが浅い彼女たちにとっては最初の難関だ。これはラッキーライラックだけの難題ではないが、やはり最内1番枠は気になるところ。

 

反応がいいスタートからラッキーライラックの石橋脩騎手は外を見ている。行きたい組は行かせるが、引くことはない。コーディエライトツヅミモンアンヴァルを行かせて4番手のインに収まる。

その後にレッドサクヤリバティハイツハーレムラインリリーノーブルが続き、その後の隊列にアンコールプリュスカーレットカラーレッドレグナントが並ぶ。さらに後方にマウレアトーセンブレスフィニフティプリモシーン、後方2番手にアーモンドアイが待機し、最後方はデルニエオールとレースは流れる。前半800m46秒6、固まって進む馬群から平均的に流れていることが想像できる。

 

そして伝説の幕が開く

 

古馬の大阪杯とは違い、4角までレースは動かない。夢舞台である桜花賞の最後の直線に全ての馬が懸けている。

そんな静かな流れが幸いし、ラッキーライラックは包まれることなく、直線入り口でアンヴァルとの間のスペースに動いて進路を作る。2歳女王は堂々と抜け出していく。後ろは気にしない。つかみたいのはゴールの先にある桜の称号だ。それは一生に一度しかつかめないタイトルなのだ。石橋脩騎手もステッキを飛ばし、ラッキーライラックのエンジンに火をつける。そうやって反応するように彼女は関わってくれた人々から教えてもらった。速く走れ、レースに勝てと。ラッキーライラックは堂々と先頭に立っていく。

 

かなり離れた大外から同じように速く走ることを宿命としたアーモンドアイが伸びてくる。3角で16番手にいた彼女は大外を悠然と回り、いつものように最後の直線で溜め込んだエネルギーを爆発させた。ルメール騎手はステッキを打っていない。真っ直ぐにひたすら手綱を押す姿は実に優雅で美しいフォームだ。

 

何とかゴールへ飛び込もうとするラッキーライラックを明らかに脚色で上回るアーモンドアイ。観ている者たちの想像を遥かに超えている走りに声を失う。天才がその真の姿を見せつける瞬間、私たちは叫ぶ言葉を忘れてしまう。

 

桜の称号はアーモンドアイの頭上に輝き、ラッキーライラックは2着に敗れ、その背後は今回もリリーノーブルだった。勝ち時計1分33秒1(良)は桜花賞レコード。

 

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全着順

第78回 桜花賞(GⅠ)3歳オープン(芝1600m)

着順
馬名
性別・馬齢
騎手
着差・タイム
1
アーモンドアイ
牝3
C.ルメール
 1:33.1
2
ラッキーライラック
牝3
石橋脩
1.3/4
3
リリーノーブル
牝3
川田将雅
1/2
4
トーセンブレス
牝3
柴田善臣
1.3/4
5
マウレア
牝3
武豊
ハナ
6
リバティハイツ
牝3
北村友一
ハナ
7
レッドサクヤ
牝3
松山弘平
ハナ
8
スカーレットカラー
牝3
岩田康誠
クビ
9
ツヅミモン
牝3
秋山真一郎
ハナ
10
プリモシーン
牝3
戸崎圭太
1.1/4
11
アンコールプリュ
牝3
藤岡康太
2
12
フィニフティ
牝3
福永祐一
1.1/2
13
デルニエオール
牝3
池添謙一
クビ
14
ハーレムライン
牝3
大野拓弥
クビ
15
レッドレグナント
牝3
M.デムーロ
1/2
16
コーディエライト
牝3
和田竜二
2.1/2
17
アンヴァル
牝3
藤岡佑介
3/4
取消
アマルフィコースト
牝3
浜中俊
 

 

 

1~3着馬コメント 

1着アーモンドアイ(2番人気)

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16番手から直線ノーステッキでごぼう抜き。上がり3ハロンは33秒2、次位に1秒も差をつけている。余計な言葉はいらない。伝説の桜花賞馬。

 

2着ラッキーライラック(1番人気)

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スタートを決めて、鞍上が外をみる余裕もあった。理想的なインの4番手につけて、流れも遅くならずに進んだことで外から動かれることもなかった。直線では進路を失うことなく抜け出した。ソツがない、敗因など見当らないレースだった。自身に敗因はなかった。あるとすれば、同じレースにアーモンドアイがいたことだろう。松永幹夫厩舎はレッドディザイアに続く悔しい桜花賞2着だが、レース内容は完璧であり、性能の高さは発揮できた。しかし、ラッキーライラックには桜の称号を手にするチャンスがない。それがただただ悔しいところだろう。石橋脩騎手とともに前を向いて欲しい。

 

3着リリーノーブル(3番人気)

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またもラッキーライラックに敗れてしまった。ラッキーライラックが前へ行く作戦を取ったことで再度追いすがる展開になってしまった。阪神JFではラッキーライラックの前にいたので、今後はまだまだラッキーライラックに先着する余地がありそう。近年のこの路線は、リリーノーブルのように常に上位に来るキーホースがいる。これは憶えておきたい。4着以下とは差があり、この馬も世代トップレベルを証明した。

 

 

総評

 

この日、桜花賞へ出走した彼女たちに生まれてから関わってこられた方たちに改めて感謝したい。そして、デビュー以来、ずっとこの舞台を懸けて戦ってきた彼女たちと、そこで敗れていった馬たちにも感謝せねばならない。

クラシックは若馬にとって勝たなければ次へ進めない、過酷すぎるトーナメント戦だ。だから、桜花賞に出走した17頭は立派の一言に尽きる。そして、この17頭に敗れた馬たちが無数にいる。

そんな敗者たちとともに、この先もまだまだクラシックは続いていく。みんな、女王アーモンドアイを追いかけている。

オークスまで42日しかない。そのオークスへの出走権はアーモンドアイラッキーライラックリリーノーブルトーセンブレスマウレア、これら5頭しか獲得していない。残りの13枠はまだ空いている。

 

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(勝木淳)

(写真・かぼす)

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