【重賞回顧】第157回天皇賞(春)(GⅠ)

馬はどうして走るのか。または、どうして人は馬を走らせるのか

 

長い年月、競馬の目撃者を続けていると、色々な場面に遭遇する。歓喜もあれば悲劇もあり、立ち止まりたいと思うときもありながら、それでもここまで目撃者として歩んできた。その中で経験したものを改めて振り返り、考える。第157回天皇賞(春)はそんなレースだった。

 

メンバー唯一のGⅠウイナーシュヴァルグラン、昨年ジャパンカップであのキタサンブラックを抑えてタイトルを手に入れた。年明け緒戦の大阪杯はらしさを出せずに13着敗退。ジャパンカップと同じくH.ボウマン騎手を背に天皇賞(春)で復権を目指す。

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これまでGⅠ2着1回3着2回と惜敗続きのレインボーラインは、前走でGⅡ阪神大賞典を勝ってアーリントンカップ以来の重賞タイトルを獲得。引き続き岩田康誠騎手が手綱をとる。

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阪神大賞典3着だったクリンチャーは菊花賞2着後の京都記念でGⅠ馬を抑えて快勝。武豊騎手騎乗停止の余波を受けて三浦皇成騎手へ乗り替わった。菊花賞2着からスタミナは現役屈指。

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以下、日経賞勝ちガンコ、阪神大賞典2着のサトノクロニクル、日経賞2着チェスナットコート、5着トーセンバジル、ステイヤーズS3連覇のアルバートなど。栄光と伝統の天皇盾を目指して淀の2マイルに個性的なメンバーが集まった。

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サラブレットは人が作り出したものだ。ダーレーアラビアンバイアリータークゴドルフィンアラビアン、サラブレット3大始祖は18世紀から人間の記録に残されている。血の繁栄は改良の歴史であり、それはより速く走るために行われてきた。長い進化の旅の果てに現代を生きるサラブレットはいる。繊細なまでに研ぎ澄まされた手足は進化の賜物だ。

 

先手を取ったヤマカツライデンは外から迫るトミケンスラーヴァを突っぱねる。1周目のスタンド前までにトミケンスラーヴァは控え、ヤマカツライデンの一人旅が始まる。最初の1000mは60秒1、前半に突っかけたトミケンスラーヴァがいるので、あまりペースを落とせない。3番手にガンコシュヴァルグランのボウマン騎手も控えはしない。好位で折り合いをつける。

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ただ速く走るだけでは競走は競馬にはならない。速く走るよう進化させることで、馬は闘志を宿す。より前へ。1頭でも追い抜こうとする心は魂となって受け継がれ、育まれて進化の副産物として精神の一部分となる。人は競馬を成り立たせるためにそれを制御する技術が求められる。馬とコミュニケーションをとる感性はやがて折り合いと呼ばれるようになった。

 

ヤマカツライデンは2角を過ぎるまでに大きなリードを作った。トミケンスラーヴァガンコシュヴァルグランクリンチャーは折り合いをつけてペースをコントロールする。ヤマカツライデンは後ろがコントロールしている隙にラップを落とす。ハロン12秒台後半から13秒台が刻まれる。

 

ゆっくり走るよう折り合いをつけることで、速く走るサラブレットに長い距離を走らせるスタミナ配分を教えていく。ラップをコントロールすることで極限以上の力を一気に出させないようにすれば、距離2マイルを走り抜くことが可能だ。だが、サラブレットの我慢は人にも馬にも負担であり、我慢してばかりでは物理的に前を捕らえられない流れを生みかねない。

 

サトノクロニクルは中団から外を動いて行く。落ち着いたラップが続いたことで中盤のペースダウンが著しい。我慢だけでは勝てないと踏んだ川田将雅騎手がサトノクロニクルを解き放ち、速く走るように促す。

この動きに好位組も抵抗してペースをあげ、一人旅のヤマカツライデンを一気に飲み込みにいく。シュヴァルグランの手応えがいい。ガンコが抵抗し、クリンチャーが食らいつく。2度目の坂越えからレースは動く。後ろにいたレインボーラインチェスナットコートも外から進出していく。

 

人はどうして馬を走らせるのか

 

ボウマン騎手のアクションが大きくなり、シュヴァルグランが抜ける。追うクリンチャーチェスナットコート、進路を失ったレインボーラインが外から真ん中に切り替え、さらにインへ入る。僅かなスペースでも馬に我慢させて溜めたエネルギーを爆発させるためには進路が必要だ。手綱を引くわけにはいかない。勝たせねばならないからだ。

 

馬は走るために生まれてきた。だから、人は馬の走る力を引き出さねばならない。馬は走るために、速く走るために生きている。それは宿命であり、三大始祖から伝えられてきた馬の魂だ。人は走らせるのではない。人が馬と共鳴するから走らせられるのだ。魂には魂で応える。競馬に魂がない人間に馬は応えてはくれまい。走らせるとはそういうことだ。

 

3150mを乗り越えた残り50m。シュヴァルグランとボウマン騎手の魂とインを抜けてくるレインボーラインと岩田騎手の魂が激突する。魂の叩き合いに勝ち、レインボーラインが首だけ前に出たゴールの瞬間、レインボーラインの右の前脚が不自然な形で地面を捉えた。そして、岩田騎手はゴール後に悲しそうな表情で馬を即座に止めた。

 

競馬を目撃し続けた私が言えることは、自分のために馬を走らせるような騎手はいないということ。騎手は馬の走る魂を最大限に解き放つために手綱を握っている。馬に携わる人の中には馬を道具だと思っている人は一人もいないということ。そして、レインボーラインは第157回天皇賞(春)を勝ったということだけだ。

勝ち時計3分16秒2(良)。2着シュヴァルグラン、3着クリンチャー

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全着順

第157回 天皇賞(春)(GⅠ)4歳以上オープン(京都・芝3200m)

着順
馬名
性別・馬齢
騎手
着差・タイム
1
レインボーライン
牡5
岩田康誠
 3:16.2
2
シュヴァルグラン
牡6
H.ボウマン
クビ
3
クリンチャー
牡4
三浦皇成
1/2
4
ミッキーロケット
牡5
和田竜二
クビ
5
チェスナットコート
牡4
蛯名正義
3/4
6
トーセンバジル
牡6
M.デムーロ
1.1/2
7
スマートレイアー
牝8
四位洋文
1/2
8
アルバート
牡7
C.ルメール
ハナ
9
シホウ
牡7
浜中俊
2.1/2
10
ヤマカツライデン
牡6
松山弘平
1/2
11
トウシンモンステラ
牡8
国分恭介
クビ
12
サトノクロニクル
牡4
川田将雅
3/4
13
ソールインパクト
牡6
福永祐一
3
14
ガンコ
牡5
藤岡佑介
1/2
15
ピンポン
牡8
宮崎北斗
1/2
16
カレンミロティック
セ10
池添謙一
1.1/2
17
トミケンスラーヴァ
牡8
秋山真一郎
大差

 

 

1~3着馬コメント

1着レインボーライン(2番人気)

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GⅠでの勝負強さと惜敗癖は父ステイゴールドに似ている。ステイゴールドファンにとっては思い入れある1頭がついにタイトルをつかんだ。それだけにゴール後のシーンは胸が痛むものだっただろう。あのゴール前の走りはレインボーラインの魂そのものだった。そして、4角で外を走っていたレインボーラインをブレーキを一切かけずに進路を確保していった岩田騎手の騎乗はそれに応えるものであった。だからゴール板でシュヴァルグランを捕らえることができた。競馬は完全にシュヴァルグランのものだった。それを最後に覆したシーンは父ステイゴールドがシャティンでエクラールに襲いかかった姿と重なる。ただ無事を祈るしかない。

 

2着シュヴァルグラン(1番人気)

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やはりボウマン騎手はレースの主導権を握る競馬を選択した。長距離戦で好位にとりついて折り合いをつけるのは簡単なことではない。馬の後ろを意識すれば順位は自然と下がってしまう。そこを振り切ってあの位置を取ったのは名手だからできたこと。サトノクロニクルらの仕掛けにも馬なりで抵抗した姿は王者らしかったが、結果的には先頭に立つ箇所がやや早すぎたかもしれない。しかし、それは結果論で、待つべき場面はなかった。堂々たる競馬での敗戦は負けて強しだった。

 

3着クリンチャー(4番人気)

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ステイヤーらしさを良馬場の京都でも発揮できた。シュヴァルグランより後ろでマークする形になったことで最後の瞬発力で見劣ったが、それでも最後まで伸び続けて後続は封じた。まだまだ強くなる4歳。父ディープスカイの渋めのダート適性が高いという評価を今後も覆していきたい。

 

 

総評

レインボーラインの馬名由来は「虹の道」だが、レインボーラインと聞くと、実は小さな男の子が思わぬ反応を示す。この馬がデビューした頃に放送されていた戦隊もの「烈車戦隊トッキュウジャー」でヒーローたちを乗せた列車が走る路線がレインボーラインだったからだ。ちびっこたちのヒーローと同じ名前がつけられたレインボーラインは競馬ファンのヒーローになった。これからも元気でいてほしい。

大逃げを打ったヤマカツライデン、動いたサトノクロニクル、先に先頭へ立ったシュヴァルグラン、馬群を縫いながら伸び続けて最後に抜け出したレインボーライン

歴戦の古馬たちの魂のぶつけ合いは今年も見るべき視点があまたある味わい深い天皇賞(春)だった。

 

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(勝木淳)

(写真・ゆーすけ)

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