【重賞回顧】第79回優駿牝馬(オークス)(GⅠ)

吸い込まれそうな、その瞳。強くなければ乗り越えられない。第79回優駿牝馬―オークス―

 

戯曲の世界では基本フォーマットに3幕劇という形がある。1頭のサラブレットを語る物語があるなら、3歳の5月は第1幕の終わりだろう。その後の競走生活が第2幕、そして、競走引退後が第3幕と展開していくにちがいない。来週の日本ダービーは第1幕のクライマックス、だからみんな固唾を飲んで待っている。牝馬クラシックにおけるクライマックスは優駿牝馬―オークス―なのだろうか。桜花賞の儚き美しさが人々を魅了し続け、牝馬なら桜花賞をと意識されているので、牝馬は阪神競馬場マイル戦で勝つことを課せられてる。しかし、その後の競走生活という第2幕を意識するならば、その課題は最初の関門にすぎない。さらにその先が見えているのか、オークスは第1幕の終わりではなく、第2幕への序曲だといえるだろう。

 

4月8日、阪神競馬場、桜の舞台。

断然人気を背負って1番枠から挑んだラッキーライラックはスタートを決めて行きたい馬を促して好位に収まる。直線に向いた瞬間に先行馬の外へ動き、進路を作って抜け出す。惚れるほど完璧な正攻法な競馬で勝利を確信しかけたとき、大外を悠然と追い上げてきたのがアーモンドアイだった。シンザン記念、桜花賞、立て続けてマイル重賞に出走しながら、マイル戦の競馬に合わせる気がないかのような後方追走から同じように末脚を爆発させ、ラッキーライラックを飲み込んだ。伝説の桜花賞馬、レース後にそう表現した記憶がある。

 

アーモンドアイに交わされたラッキーライラックはなんとか2着を守ったが、ゴール寸前で急襲してきたのがリリーノーブルだ。阪神JF、チューリップ賞とラッキーライラックに連敗を喫したリリーノーブルが、まだ戦いは終わってないとラッキーライラックへ再戦を表明したかのようだった。

 

最後に追い込んで末脚を見せ、挑戦を諦めていない馬は他にもいた。4着トーセンブレスだ。残念ながらオークス前日に出走を取り消したが、第2幕はこれから始まる。5着マウレアも力尽きた走りではなかった。桜花賞まで続いたやや厳しいスケジュールをリセットし、オークスに挑む。7着レッドサクヤは先行馬群でレースを進め、ラッキーライラックの抜け出しに反応できなかった。ハイペースのエルフィンステークスもそうだが、反応の悪さはマイラーの枠には留まらない可能性を示す。

 

この6頭が800mの過酷な距離延長へ挑む。

 

距離で言えば、すでに2,400mを経験しているフローラS勝ち馬サトノワルキューレは強気だろう。その2,400m戦を牡馬相手に勝っているからだ。

他にフラワーCを勝って桜花賞をパスしたカンタービレ、スイートピーS勝ちのランドネ、忘れな草賞から虎視眈々のオールフォーラヴ、前走矢車賞勝ちのトーホウアルテミスは菊花賞馬トーホウジャッカルと3/4同血、スタミナ豊富だ。

 

強くなければ乗り越えられない、東京競馬場2,400m樫の舞台の開演。

 

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伝説は始まりに過ぎず。ここは本当の姿を見せるとき

 

戦前、種牡馬ロードカナロアの距離適性について様々憶測されてきた。世界の短距離王ロードカナロアとその子どもたちの成績を眺めれば適性を疑問視する声があがるのは不自然ではない。

 

スタートから1角にかけて枠を活かして積極策に出たリリーノーブルの父はルーラーシップ、持久戦で桜の舞台の借りを返そうというところだろう。直後に染め分け帽子のラッキーライラックも続く。しかし、2頭ともに桜花賞までのマイル戦の影響があるのか、1角ではちょっと落ち着かない仕草を見せる。

 

対照的に競馬ファンのため息を誘ったのはアーモンドアイだ。ラッキーライラックの直後6番手の外をクリストフ・ルメール騎手と呼吸を合わせて走っていたからだ。これまでマイル戦に付き合わなかったアーモンドアイの本当の姿が見えた。ここまでの舞台では追走に苦しんでいたわけではなく、ただ自分の走りを守っていただけだったのだ。800mの距離延長に慎重になる人馬を尻目にアーモンドアイは堂々とラッキーライラックリリーノーブルを射程圏に入れた競馬を展開する。

 

ハナを奪って後続を大きく引き離したサヤカチャンは締まったレースラップを刻んで進む。離れてランドネが番手を進み、リリーノーブルカンタービレラッキーライラック、そしてアーモンドアイと続き、オールフォーラヴレッドサクヤサトノワルキューレアーモンドアイを意識して追走する。

 

直線で内を進むサヤカチャンランドネと馬場の外目に進路を取ったリリーノーブルラッキーライラックリリーノーブルがポジション通りラッキーライラックの前を進み、ラッキーライラックはやや進路取りに手間取り、リリーノーブルのインに切り替える。この間にリリーノーブルラッキーライラックを突き放しにかかり、苦しくなるラッキーライラックレッドサクヤサトノワルキューレマウレアも追うが、本当の勝負は一瞬だった。この攻防をアーモンドアイはまたも外から違う手応えで交わしていく。しかし、未知なる東京2,400mは楽ではない。アーモンドアイも若干内にささる仕草を見せる。強くなければ乗り越えられない、オークスは第2幕の序章、この先にはさらに厳しい戦いが待っていることを予感させる舞台だ。だが、アーモンドアイはそれを乗り越えた。その名の通り美しく大きな瞳は未来を見つめている。2着リリーノーブル、3着はラッキーライラックが意地を見せた。勝ち時計2分23秒8(良)

 

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全着順

第79回 優駿牝馬(GⅠ)3歳オープン・牝馬(芝2400m)

着順
馬名
性別・馬齢
騎手
着差・タイム
1
アーモンドアイ
牝3
C.ルメール
 2:23.8
2
リリーノーブル
牝3
川田将雅
2
3
ラッキーライラック
牝3
石橋脩
1.3/4
4
レッドサクヤ
牝3
福永祐一
1.3/4
5
マウレア
牝3
武豊
1/2
6
サトノワルキューレ
牝3
M.デムーロ
1.3/4
7
パイオニアバイオ
牝3
北村宏司
クビ
8
ウスベニノキミ
牝3
三浦皇成
1/2
9
オールフォーラヴ
牝3
和田竜二
1
10
ロサグラウカ
牝3
戸崎圭太
1/2
11
◯外ランドネ
牝3
内田博幸
1.1/2
12
シスターフラッグ
牝3
岩田康誠
1.1/4
13
カンタービレ
牝3
田辺裕信
クビ
14
トーホウアルテミス
牝3
松若風馬
1.1/4
15
ウインラナキラ
牝3
大野拓弥
1.1/4
16
サヤカチャン
牝3
松岡正海
1.1/2
17
オハナ
牝3
藤岡康太
1.1/2
取消
トーセンブレス
牝3
柴田善臣
 

 

 

1~3着馬コメント

1着アーモンドアイ(1番人気)

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真っ黒な大きな瞳に言葉が出ない。美しく愛らしい瞳とどこまでも走っていってしまいそうな走り、何人も魅入られてしまう姿は早くも後世に語り継ぎたくなる。東京2,400mで6番手から上がり最速の脚(33秒2)を使われては勝てる馬はそうはいないだろう。容姿端麗に強さを加えた競馬界の新たなヒロイン。そして、初年度からこんな名馬を輩出したロードカナロアに敬意を表する。さすがは世界のロードカナロアだ。

 

2着リリーノーブル(4番人気)

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今回は桜花賞とは一転した先行策。サヤカチャンが作った平均的な流れを考えれば、厳しいレースを強いられながらラッキーライラックを封じて2着とスタミナがあるところを見せた。母ピュアチャプレットは短距離中心だったが、父ルーラーシップと母父クロフネからスタミナを受け継いだのだろう。直線でラッキーライラックより先に馬場のいい外側に進路をとった川田将雅騎手の巧みなレース運びも見逃せない。

 

3着ラッキーライラック(2番人気)

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桜花賞のリベンジに挑んだ一戦。内枠を活かして好位をとるレース運びは桜花賞と同様だったが、1、2着馬が桜花賞とは異なるレース運びをしたことで多少狂わされた感じもある。リリーノーブルに進路をカットされ、その内へ入っていったが、マイル戦のときのような伸びが見られなかった。リリーノーブルにも離されてしまい、距離に壁があったかもしれなく、距離延長を味方につけた上位2頭とは差があった。結果、春は無冠に終わってしまったが、第2幕での巻き返しに期待したい。

 

 

総評

5月20日はアーモンドアイに乗ったルメール騎手の誕生日。きっと忘れ得ない1日になったであろう。このオークスで待機策から一転した先行する競馬を試みるあたりはルメールマジック健在といったところだろう。桜花賞のマイル戦を無理させない競馬で勝たせ、距離延長のオークスで勝てる競馬をさせる、国枝栄調教師の馬の仕上げと戦略には唸らされるばかりだ。

オークスは強くなければ乗り越えられない壁だ。アーモンドアイに敗れた2着以下の馬たちは3歳春の時点では乗り越えられなかったが、この壁に挑んだ経験は今後の糧となる。そして、いつかそれぞれが壁を乗り越えられる日が来る。先行したリリーノーブルラッキーライラック、追いかけたレッドサクヤマウレアサトノワルキューレ、その他の馬たち、それぞれが馬生の第2幕へ向かっていく。

 

 

(勝木淳)

(写真・かぼす)

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