【重賞回顧】第85回東京優駿(日本ダービー)(GⅠ)

1/6955の頂点を目指して。第85回日本ダービー

 

日本ダービーが終わった、夕刻。

私は茫洋とした面持ちで夏の夕日を眺めている。間もなく夏至を迎えるこの時期は晴れれば夕日は長く、美しい空だ。今年も天はダービーデイに青空を贈ってくれた。そのことに感謝しながらも胸の中に湧き立つ虚しさ、寂しさを引きずっている。いつもダービーデイの夕方は同じような気分に支配される。

日本ダービーが終わった夕刻はいわば物語のエピローグのようなもの。1年間、ずっとずっと追いかけていた壮大な物語が終わってしまう、沈んでいく夕日にその終わりへの寂寥感が重なる。

 

2015年に生を受けたサラブレット6955頭。全ての馬が目標とする物語がある。残念ながら競走馬になれなかった馬や故障、道半ばで命を散らした馬、競走で勝てないことも賞金を加算できなかったこともあり、もう一歩というところで出走権を逃した馬もいる。6955章にも及ぶ大河物語は、18篇に絞り込まれ、そして、第85回日本ダービーという物語に収められる。

そして、2018年5月27日、今年も私たちは85冊目の日本ダービー物語の結末を読める日を迎えた。できれば、この18篇すべてをここで紹介したいものだ。18/6955、確率にしてたった0.26%だから、どれほど貴重な物語なのか分かる。

 

 

1角で交錯するいくつもの物語

 

2018年5月27日午後3時40分。

ダービーのゲートが開く。ほぼ一斉のスタート、ハナを奪ったのは皐月賞馬12番エポカドーロだ。外から戸崎圭太騎手が明確にハナを主張している。押し出されて仕方なくでは決してなく、皐月賞で4番手から抜け出したエポカドーロに逃げの手を命じた。皐月賞を勝った競馬をダービーで捨てる潔さ、藤原英昭調教師、戸崎騎手ともにダービーは皐月賞のような競馬では勝てない、形に拘らずにダービーを勝ちに行くという決意をしているにちがいない。

 

エポカドーロにハナを譲った2番手集団の外に、ピンクの帽子にダービーで見慣れた勝負服が見える。私は「あっ」と声を漏らす。いるはずがない位置にワグネリアンがいたからだ。福永祐一騎手はスタート直後から先行する姿勢を見せ、まるでそこしか狙っていないかのように真っ直ぐ5番手の内ラチから4頭目付近にとりついた。

 

ダービーの1角はポジションが決まってしまう鍵になる地点なので、内の馬も外の馬もポジションを主張しにいく。ワグネリアンの外からジェネラーレウーノが主張し、内にいたテーオーエナジーも理想を目指して外へ出てくる。ワグネリアンの進路は自然と狭くなったが、福永騎手は絶対に引かないと主張した。本来は後方から末脚を溜める競馬をするワグネリアンには得意な形があり、17番枠からある程度位置を取りに行ってもストレスが掛かる状況ならば、引いてストレスを回避することもできたはずだ。しかし福永騎手は頑なに外の3列目、内から4頭目付近を譲ろうとしなかった。今日は絶対にここで競馬を進める、と福永騎手は珍しく気迫を前面に出した。

ジェネラーレウーノワグネリアンに突っぱねられたので、さらにポジションをあげて2番手へ行き、テーオーエナジーは外に出せずに内にポジションを切り替えた。

 

2角を回って向正面。隊列は落ち着き、エポカドーロはラップタイム12秒4を2ハロン続け、マイペースに誘い込む。父オルフェーヴルのように少し厳しいペースが合っているようだ。5番手外を譲らなかったワグネリアンだが、2角を利用してブラストワンピースが隣のインを突いてきた。自然と外に出ていけば、今度は馬がいない外目を向正面で走ることになる。まだ折り合いをきっちりつけたいレース前半で馬とケンカするわけにはいかないと、福永騎手は前を走るコズミックフォースの真後ろを狙ってブラストワンピースを内へ押し込める。ここでも福永騎手は頑なだ。周りの馬にプランを合わせるのではなく、あくまで自分のプランを遂行する、何かが違う。

 

3角を過ぎて残り800m付近、ジェネラーレウーノコズミックフォースに被されないように戸崎騎手はエポカドーロの走るペースをじわりとあげる。12秒台を刻んでいたラップが11秒7と加速ラップに切り替わる。ここからエポカドーロは再加速し、11秒2という後半1200mで最速ラップを記録。ジェネラーレウーノが苦しくなり、コズミックフォースダノンプレミアムが食い下がろうとするが差を縮められない。

 

エポカドーロは道中のリードを守りながら振り切りにかかった。さらに坂下から11秒2と加速を維持した。しかし、コズミックフォースの後ろでエネルギーを溜めていたワグネリアンが福永騎手のアクションに応えるように加速し始める。ワグネリアンは皐月賞までのように少しエンジンの掛かりが悪いところがあったが、前半で好位をキープしていたことが幸いし、エポカドーロに離される前にエンジンを点火させることに成功。対照的にこの11秒2-11秒2という区間で後方から差を詰めるのは至難に近く、キタノコマンドールステルヴィオは好位との距離を詰められない。

 

坂を上がって、残り200m、エポカドーロが死力を尽くすも、11秒2-11秒2という極限を乗り越えてさらに加速するのは難しかった。この地点で12秒2とラップが落ち、直線半ばで伸びあぐねたコズミックフォースワグネリアン、後方から1頭だけ伸びたエタリオウが襲いかかってくる。なかでもワグネリアンが外からエポカドーロに並ぶ脚色が断然よかった。末脚自慢のワグネリアンはゴールまで伸びる力をまだ残していた。もう交わす相手はただ1頭、福永騎手が追い、ワグネリアンが応える。エポカドーロと戸崎騎手も諦めない。ここまで先頭を譲らずにきて負けるわけにはいかない。この2頭の追い比べは僅か数十メートルだったが、第85回日本ダービー物語のハイライトシーン、見ごたえはたっぷりあった。

 

凱歌はワグネリアンと福永騎手にあがり、最後の最後にエポカドーロは先頭を譲ってゴール板を迎えた。時計は2分23秒6(良)、3着は3番手からコズミックフォースエタリオウに競り勝った。

 

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全着順

第85回東京優駿 3歳オープン(東京・芝2400m)

着順
馬名
性別・馬齢
騎手
着差・タイム
1
ワグネリアン
牡3
福永祐一
 2:23.6
2
エポカドーロ
牡3
戸崎圭太
1/2
3
コズミックフォース
牡3
石橋脩
クビ
4
エタリオウ
牡3
H.ボウマン
ハナ
5
ブラストワンピース
牡3
池添謙一
ハナ
6
ダノンプレミアム
牡3
川田将雅
アタマ
7
ゴーフォザサミット
牡3
 蛯名正義
1.1/4
8
ステルヴィオ
牡3
C.ルメール
クビ
9
アドマイヤアルバ
牡3
丸山元気
3/4
10
ステイフーリッシュ
牡3
横山典弘
クビ
11
タイムフライヤー
牡3
内田博幸
1.1/4
12
キタノコマンドール
牡3
M.デムーロ
クビ
13
サンリヴァル
牡3
浜中俊
1/2
14
グレイル
牡3
岩田康誠
3/4
15
オウケンムーン
牡3
北村宏司
2.1/2
16
ジェネラーレウーノ
牡3
田辺裕信
1.3/4
17
◯外ジャンダルム
牡3
武豊
1/2
18
テーオーエナジー
牡3
藤岡康太
5

 

 

1~3着馬コメント

1着ワグネリアン(5番人気)

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母系の祖父、祖母そして、父、母すべてが同じ金子真人HDの勝負服で、日本の競馬を走った金子ブランドの結晶のような馬。金子オーナーはワグネリアンでダービー4勝目。この血統、勝つべくして勝ったダービー。素晴らしいとしか言いようがない。大一番で好位追走という全く違う競馬に適応した馬を褒めたい。馬場や展開を読み、最初からあのポジションを狙い、他馬に譲らなかった福永騎手に父福永洋一騎手を見たオールドファンは多いだろう。比べるわけではない、父の姿が重なって見えた。そして、父が手に入れられなかったダービージョッキーの栄誉を手に入れた。

 

2着エポカドーロ(4番人気)

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こちらも奇襲ともいえる逃げの手。第85回日本ダービーを完璧に支配したのはこの馬。残り800mから加速し、残り600m~200m地点で11秒2を続けたのは馬の底力以外にはない。ここまで完璧なレースをしたからには勝ちたかっただろう。最後の最後まで先頭を守り抜こうとエポカドーロを叱咤し続けた戸崎騎手にとってもダービージョッキーは悲願だった。勝負の世界とは言え、切ない。だが、皐月賞馬の力は存分に見せた。

 

3着コズミックフォース(16番人気)

展開と馬場を味方につけたとはいえ、立派なレース内容。中でも1角でごちゃついた際に冷静に立ち回り、一歩先に抜け出して3番手を確保した石橋脩騎手の手綱さばきは見事だった。ここで3番手をとったことが3着好走につながった。

 

 

総評

 

福永騎手の初ダービーは98年2番人気キングヘイロー。よもやの逃げに出て大敗を喫した。以後、有力馬で挑みながら差して届かずを続け、19回目の第85回日本ダービーであの時とは全く異なる意図した奇策でダービージョッキーとなった。ぜひパトロールを見直してほしい。福永騎手は1角で狙ったポジションを執拗に守り抜いている。これがワグネリアンをダービー馬にした勝因だろう。ダービーを勝つときはすべてが上手くいくものだと言われるが、それは運の話では決してない。勝つべくして勝つ、そのための戦略が肝心だ。第85回日本ダービーは1角に物語の分岐点があった。逃げたエポカドーロ、好位のワグネリアン、どちらもこれまで物語を進めるための戦い方、武器を最後に捨てた。この武器では今日の日本ダービーは勝てない、簡単に書くがこの境地に行き着き、それを捨て、新たな策を実行するのは容易なことではない。

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ダービーは競馬の流れを作るレース。第85回日本ダービーを境にこうした戦略面の戦いがさらに繰り広げられれば、競馬はもっと面白くなる。

 

ダービーが終わった夜。

寂しさばかり嘆いていられない。新たな第86回日本ダービー物語は馬産地ではとっくに始まっているのだから。

 

 

(勝木淳)

(写真・かぼす)

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