【重賞回顧】第59回宝塚記念(GⅠ)

諦めず腐らずすべきことを続ける尊さ。第59回宝塚記念

 

20世紀の終わり、日本競馬界にアンゴルモアの大王ならぬ世紀末覇王が降臨した。

天皇賞(春)、宝塚記念、天皇賞(秋)、ジャパンカップ、有馬記念、当時の中長距離GⅠを同一年全勝、ステップレースの京都記念、阪神大賞典、京都大賞典も1着、2000年1年間、どの馬にも先着を許さなかった。憎らしいほどに強靭な体と心を内包した世紀末覇王ことテイエムオペラオー。他陣営の過剰ともいえるレース中の圧力を全て跳ねのけた覇王の背にいたのが和田竜二騎手

和田騎手は当時、デビュー5年目の23歳の若者だった。管理調教師であり師匠である岩元市三調教師の他陣営を煙に巻くような泣きのコメント、テイエムオペラオーの憎らしいまでの強さ、レース後に「1,2、3ダァー」と叫ぶ和田騎手

これらは私が競馬を始めた頃、繰り返し目の前に広がった景色だった。

 

あれから18年という時間が過ぎた。岩元調教師は引退、テイエムオペラオーはこの春、天へ旅立った。そして、私と同じく今年41歳になった和田騎手は現役中堅ジョッキーとしてひた向きにファイトし続けている。

2000年宝塚記念から18年、そして、テイエムオペラオーがこの世を去った年の宝塚記念。誰もが感じたにちがいない、諦めず腐らずすべきことを続けることの尊さを。

 

梅雨が憎く思えるほど雨に祟られた一週間、前日土曜の競馬も雨、サマーグランプリ宝塚記念はどうなってしまうのかと心配したが、そんなものを吹き飛ばすほどの青空が仁川の空を包み込んだ。

出走全馬が今年に入ってオープンレースを勝った数は僅か3勝。やや寂しい近況の馬が多いが、その分、混戦であり、この舞台に復活を期す馬たちが意欲的に参戦してきた証でもある。

出走馬中、今年オープンを勝った3頭がパフォーマプロミス(GⅡ日経新春杯)、ダンビュライト(AJCC)、そしてこの開催開幕週のステップレース鳴尾記念(GⅢ)を勝ったストロングタイタンだ。

ファン投票1位で1番人気サトノダイヤモンドは大阪杯7着以来。3歳でキタサンブラックを破って有馬記念を勝った実績は申し分なし。復活を期す。

ファン投票7位2番人気はキセキ。昨年の極悪馬場の菊花賞勝ちがあり、雨が残る馬場で期待される。菊花賞当時のミルコ・デムーロ騎手に手綱が戻った。

ファン投票15位3番人気のヴィブロスはドバイターフ以来の出走。昨年のドバイターフで見せた走りは現役屈指の切れ味を証明している。

ファン投票5位6番人気のサトノクラウンは昨年の宝塚記念馬。それ以来勝ち星には見放されているが、馬場状態も含め得意条件での一変が期待される。

香港からの刺客ワーザーはご存知、香港中距離界のエース格。一昨年のQEⅡ世C勝ちをはじめGⅠ4勝、その全ての手綱を取っているヒュー・ボウマン騎手とのコンビは不気味だ。

 

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宝塚記念でしか聴けないファンファーレの生演奏がサマーグランプリの幕開けを告げる。

スタートからハナに行ったのはこの春、条件戦を逃げて連勝しているサイモンラムセス。そこに外からタツゴウゲキが牽制してくる。それを突っぱねる形でハナを譲らないサイモンラムセス。スタートからサマーグランプリに相応しい熱い戦いが続く。

 

2番手に控えるタツゴウゲキ、内からストロングタイタンが3番手に進み、スマートレイアーが並びかける。中団前にゼーヴィント、そのインでじっとするミッキーロケット、間に入るダンビュライト、騎乗する武豊騎手はこのレースで史上初のJRAGⅠ500回騎乗を達成した。後ろにサトノクラウン、外にサトノダイヤモンド、インにノーブルマーズ、この3頭の後ろでヴィブロスが待機。後方にステファノスパフォーマプロミスワーザーキセキアルバートが控えている。

 

前半1,000m59秒4の平均的な流れだったが、残り1,200mから一転して12秒0-11秒8とじわっと加速ラップへ。早めにレースが動き始める流れは、宝塚記念特有の厳しい消耗戦へと導いていく。

 

4角で馬群の大外をまくるように動いたサトノダイヤモンドが先行勢をねじ伏せにかかる姿に目を奪われている隙にインをスルスルと進出したミッキーロケットが直線入り口で先頭に立つ。鞍を馬の背の前方に置いて独特な前傾姿勢を作る和田竜二騎手が懸命に追い立てる。ここで先頭に立ったらもう押し切る以外に道はない。和田騎手はミッキーロケットに持てる限りの闘魂を注入するようにムチを入れ、ハミをかけて追う。かつて、岩元市三調教師がよく泣いていたテイエムオペラオーのズブさが重なる。

 

外を他馬とは違う脚色で駆け上がってくるのはワーザーだ。ボウマン騎手の大きなアクションに応えるようにミッキーロケットに迫る。そして遅れてインから馬群を抜けたノーブルマーズも追撃する。

 

サトノダイヤモンドが伸びを欠くように厳しい流れを早めに動いたミッキーロケットも苦しい。迫るワーザー、粘るミッキーロケット。お互いの気迫が激突するゴール前、僅かにミッキーロケットと和田騎手の執念がワーザーとボウマン騎手を上回った。

 

ゴールした瞬間、和田騎手はかつてのようなガッツポーズではなく、左手で顔を覆った。きっとそのとき、彼はミッキーロケットの背にいながら、隣にテイエムオペラオーを感じたにちがいない。

 

和田騎手の17年ぶりのJRAGⅠ制覇はテイエムオペラオーとともに勝った思い出の宝塚記念だった。

 

2着ワーザー、3着ノーブルマーズ。勝ち時計2分11秒6(やや重)。

 

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全着順 

第59回宝塚記念(GⅠ)3歳以上オープン(阪神・芝2200m)

着順
馬名
性別・馬齢
騎手
着差・タイム
1
ミッキーロケット
牡5
和田竜二
 2:11.6
2
□外ワーザー
セ7
H.ボウマン
クビ
3
ノーブルマーズ
牡5
高倉稜
3
4
ヴィブロス
牝5
福永祐一
クビ
5
ダンビュライト
牡4
武豊
1.1/4
6
サトノダイヤモンド
牡5
C.ルメール
1/2
7
ステファノス
牡7
 岩田康誠
ハナ
8
キセキ
牡4
M.デムーロ
クビ
9
パフォーマプロミス
牡6
戸崎圭太
3/4
10
スマートレイアー
牝8
松山弘平
アタマ
11
◯外ストロングタイタン
牡5
川田将雅
1
12
サトノクラウン
牡6
石橋脩
クビ
13
アルバート
牡7
藤岡康太
3.1/2
14
ゼーヴィント
牡5
池添謙一
7
15
タツゴウゲキ
牡6
秋山真一郎
クビ
16
サイモンラムセス
牡8
小牧太
7

 

 

1~3着馬コメント 

1着ミッキーロケット(7番人気)

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中距離路線では常に上位と差がない競馬を続け、距離が長いと思われた天皇賞(春)でもレインボーラインと0秒2差4着。着実に力をつけた。和田騎手らしい道中もイン、勝負所もインと、ずっとインにこだわりながら前との差を早めに詰めにいく攻めの競馬も功を奏した形だ。キングマンボ×ヌレイエフ、非サンデーサイレンスであり、ヌレイエフのスピードとキングマンボの粘りと勝負強さが開花した。後半早めのペースアップもこの血統が活きる流れになった。

 

2着ワーザー(10番人気)

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当日馬体重-27キロ。香港はレース数日前に検量された馬体重ではあるが、ここまで減ったのは馬自身にとって厳しい日本遠征だったのだろう。それでも後方から唯一直線で伸びてきた。その精神力の強さには感服だ。乗り慣れたボウマン騎手を確保、直前に阪神芝コース6ハロン追いと意欲の遠征であることを示していただけにやや過小評価だったか。

 

3着ノーブルマーズ(12番人気)

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前2走連続2着はいずれも7、10番人気という意外性をここでも発揮した。こちらも絶好の枠を活かす徹底的にインにこだわったレース振りが光る。インの前で流れに乗る馬が初GⅠでは前半やや置かれてしまい、抜け出すのが遅れた点が悔やまれる。高倉稜騎手が全28戦全ての手綱を取り、この馬の隅々まで知り尽くしていたのもこの3着激走の要因だろう。

 

総評

和田騎手は絶対に外を回らない。そう信じるファンがいるほど、和田騎手は徹底的にインにこだわる騎手だ。進路はできるものではなく、作るものであり、だからスペースを確保しようと外に動く必要はない。それはいつも1頭でも多くの馬が勝ちあがれるようにロスを避けるためだ。直線で馬群を捌く技術の高さを和田騎手はかつて証明していた。2000年有馬記念のテイエムオペラオー、絶体絶命の後方からたった300mしかない直線で馬群を捌いてメイショウドトウを差し切った。あの時、和田騎手は「馬が勝手に走った」とコメントしたが、そんなはずはない。和田騎手はデビュー5年目にして素晴らしい騎乗技術を身につけていた。

「GⅠを勝つまでオペラオーに会いにいかない」と語っていた和田騎手。最後まで約束は果たせなかったが、その心意気と姿は天国のテイエムオペラオーに届いただろう。

彼の執念が引き寄せた17年ぶりのGⅠ制覇に全ての競馬ファンが思い出しただろう、あの世紀末覇王の勇姿を。

 

2000年の有馬記念を観たことがないという若い競馬ファンには是非とも観てもらいたい。私も未だにテイエムオペラオー和田騎手がどこを通って抜け出したのか分からないほど、すごいレースだから。

 

 

(勝木淳)

(写真・ゆーすけ)

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