【重賞回顧】第18回アイビスサマーダッシュ(GⅢ)

未経験の衝撃を今も忘れない。新潟名物直線重賞。第18回アイビスサマーダッシュ

 

2001年、新潟競馬場が改装オープンした。当時、誰もが楽しみにしていた芝直線1000m戦は競馬ファン、関係者みんながあれこれと想像したものだ。欧州のレースのように馬群が2つに割れるのではないか。時計はどのぐらいになるのか。枠順は? 脚質は? あれほどワクワクした夏はなかった。

 

その夏を迎える少し前に競馬評論家の大川慶次郎さんが旅立った。大川さんは日本初の直線競馬を心待ちにしていたそうだ。大川さんに日本初の直線競馬を見せたかったとサングラスの向うで涙を流した丼崎脩五郎(井崎脩五郎)さんの姿を思い出す。

競馬ファンには色々な萌えポイントがあるだろうが、私は実はコースマニア。今でも癖がスゴイ新潟競馬場は好きなコースだが、改装当初は掴みどころがなかった。外回りは上がり3ハロン全てが直線部分で計測されるから、とにかく速い。他場の記録はアテにならなく、新潟の記録は他場の参考にしようがない。ツジノワンダーの芝2000m1分56秒4、サイレントセイバーの芝1800m1分44秒6など未だに破られない基準タイムは今もあの2001年の夏の新潟を想起させる。

 

2001年、同時に始まったのが新潟の鳥「とき」を冠したアイビスサマーダッシュという重賞だ。今年で18回目。第1回を勝ったのは快速牝馬メジロダーリングで、記録は53秒9(良)だった。翌年のカルストンライトオは53秒7(良)で、未だ破られないコースレコードだ。

以前は本当にスピード勝負の高速レースという意識があったが、手探りだった騎手も年月を経て手馴れてきた感があり、ここ6年の勝ち時計は54秒台で推移、ガンガン行く競馬から中盤でタメを作って最後まで脚を伸ばす競馬へ変化しつつある。

 

今年の1番人気は8枠ダイメイプリンセス。春は準オープン駿風S56秒3、オープン韋駄天S54秒9と連勝。逃げ差し自在な競馬は直線競馬への高い適性を感じさせる。

 

2番人気4枠ラブカンプーは新設重賞葵ステークス2着の快速3歳牝馬。実は直線名人のミルコ・デムーロ騎手が51キロで騎乗する点も人気を押し上げる。

 

3番人気は大外枠8枠17番を引いたペイシャフェリシタ。冬に条件戦を勝ち、春の中山春雷Sでオープン勝利、1分7秒4の好時計だった。もう8枠が有利なんてことは既知の事実だが、あの頃、レースが行われて初めて気づいた人は多い。ああ、そうか直線の大外枠は普段は使われない部分なのかと。

 

以下、4枠レジーナフォルテ、7枠レッドラウダ、2枠カラクレナイ、2枠ベストマッチョ、6枠ナインテイルズなど芝、ダートの快速自慢が今年も真夏の新潟に集結した。

 

芝直線1000mコースはスタートからテンの1ハロンまで緩やかに上り、外回りコースが合流する2ハロン前にかけて下るアップダウンが存在する。

 

スタートを決めた1枠アクティブミノルが酒井学騎手の懸命な叱咤に応えて外へ流れに乗ろうとするが、やはり外枠勢が速くて真ん中からラブカンプー、外のレッドラウダナインテイルズらがジワリと外ラチに寄りながら先行態勢をとる。どんなレースも前半で最も速いラップが刻まれる2ハロン目がこのコースは下っている点が難しい。行き脚がついて最速ラップを刻むところで下り坂、9秒台のラップが記録されたことすらある地点だ。今年も10秒0という他では見られないラップが刻まれた。

 

この集団にレジーナフォルテも加わり、レッドラウダのインからペイシャフェリシタも顔を出す。この先行集団の直後につけたのが外から8枠ブロワダイメイプリンセス、5枠モルフェオルフェ、内から外に寄った3枠ラインスピリットカラクレナイ、1枠ダノンアイリスらも追走。

 

ここからさらに短い区間にごく小さなアップダウンがある。先行集団が外ラチ沿いを意識して厳しい流れを凌ごうとするところでモルフェオルフェが下がる隙を狙ったダイメイプリンセスが馬場の真ん中へ持ち出す。

 

直線競馬が始まった当初の私たちの想像以上にこのコースはとてもタイトだった。バテて下がる馬が少なく、どの馬も外ラチ沿いを意識する。そして、ラップは全区間で他場では経験できない極限の速さを刻む。したがって、進路を作る、進路を取る、その判断と馬の横への動きをかなりの速さで行わなければならない。ダイメイプリンセスの進路の作り方は完璧であり、直線競馬の匠にふさわしいものだった。

 

外ラチにできた馬の壁をすり抜けたダイメイプリンセスが残り1ハロンでラップを落としたラブカンプーナインテイルズレジーナフォルテらを見事に交わし、勝負あった。2着はラブカンプー、3着ナインテイルズ。時計は53秒8(良)。

 

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全着順

第18回アイビスサマーダッシュ(GⅢ)3歳以上オープン(新潟・芝・直1000m)

着順
馬名
性別・馬齢
騎手
着差・タイム
1
ダイメイプリンセス
牝5
秋山真一郎
 0:53.8
2
ラブカンプー
牝3
M.デムーロ
1.1/4
3
ナインテイルズ
牡7
戸崎圭太
1.1/4
4
レジーナフォルテ
牝4
杉原誠人
1/2
5
ラインスピリット
牡7
森一馬
1.3/4
6
カラクレナイ
牝4
福永祐一
アタマ
7
◯地アペルトゥーラ
牡7
丸田恭介
クビ
8
アクティブミノル
牡6
酒井学
1.1/4
9
ノットフォーマル
牝6
原田和真
クビ
10
レッドラウダ
牡5
石川裕紀人
1/2
11
ペイシャフェリシタ
牝5
三浦皇成
ハナ
12
モルフェオルフェ
牝3
江田照男
クビ
13
クラウンルシフェル
牡7
津村明秀
クビ
14
クラウンアイリス
牝7
内田博幸
クビ
15
ダノンアイリス
牝5
田中勝春
1/2
16
ブロワ
牝5
西田雄一郎
1/2
17
◯外ベストマッチョ
セ5
大野拓弥
3

 

 

1~3着馬コメント

1着ダイメイプリンセス(1番人気)

CBC賞9着から別馬のような走りで快勝。8枠という枠順にも恵まれたが、新潟直線1000m戦で53秒8、2着に0秒2差は圧巻の記録。残り200mで進路がある馬場の真ん中へ出すタイミングなど技巧派で戦略的な秋山真一郎騎手と実に手が合う。父キングヘイローは父ダンシングブレーヴと母グッバイヘイローという世界的良血であり、自身のタイトルは1200mの高松宮記念。産駒はやや気難しい面を出す馬が多いが、ローレルゲレイロも含め快速型を送る。

 

2着ラブカンプー(2番人気)

軽量3歳牝馬らしくテンからスピードを活かした競馬で善戦。快速古馬と互角の競馬を展開した。最後の1ハロンは苦しくなったが、一旦は後続を振り切っている。父ショウナンカンプは高松宮記念勝ち、新潟で行われたスプリンターズS3着、サクラバクシンオーの後継馬の1頭。母父にマイネルラヴが入る快速血統であり、半兄キングハートはオーシャンS勝ち。今後もスプリント路線で活躍できる1頭だ。

 

3着ナインテイルズ(8番人気)

1200m戦でちょっとスピード不足な印象もあったが、6月阪神の水無月Sで逃げ戦法をとって一変。1分7秒6と自身の時計を大幅に詰めて参戦。その勢いをここでも発揮した。逃げはしなかったが、芝直線1000m戦の極限ラップでも先行し、最後まで走り切ったのは今後につながる内容だった。7歳にして潜在能力を発揮し始めた印象。

 

 

総評

アイビスサマーダッシュも18回目。時が経つのは早いものだ。初めて目の前で直線競馬を観戦したとき、普段はまず見られない外ラチ一杯を走る姿に驚いたことを思い起こす。全力疾走するサラブレットを目と鼻の先で見られる直線競馬の迫力は一度は経験していただきたい。それは他の競馬場では決して得られない体験になるからだ。

スタンドから遥か遠い陽炎が泳ぐ1キロ先のゲートから一斉に飛び出し、馬の位置取りも分からないぐらい横一線に広がってこちらに迫るサラブレットの群れ。そして、来るぞ来るぞと思う間もないぐらいの速度で目前を通り過ぎる。馬場を叩く脚音、騎手が繰り出すムチの音、その全てが未経験ゾーン。これが直線競馬なのだ。

 

 

(勝木淳)

(写真・Katies Gem)

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