日本一の中距離チャンピオンコース、第54回新潟記念
新潟はとにかく広い。
これは競馬場の話に限らない。夏の新潟競馬の終わりに私は新潟を訪れた。親類縁者の関係で上越地方へ旅する機会は多いが、競馬場がある下越地方と上越地方では流れている空気がなんとなく違う気がする。
誤解が多いが、新潟の上越、中越、下越は京都を基点につけらえた地方名で、京都に近い富山寄りの糸魚川方面が上越後と呼ばれ、それが上越。東京から行く場合は上越新幹線ではなく北陸新幹線に乗る。花火が有名な長岡を中心とした中越地方はかつて上杉氏が築いた巨大な山城春日山城があった。日本一の信濃川流域に魚沼など米どころが広がる。競馬場がある新潟市から北は下越地方。村上、新発田など上杉氏と色々と複雑な関係にあった名家が地名に並ぶ。この三地方に佐渡島もあり、新潟といっても地方地域にそれぞれ特徴があり、とにかく広いのだ。
新潟競馬場が外回り、内回り、長い直線、唯一の直線競馬とコースごとに独特な特徴を抱えるのは、新潟県の豊かな個性ある姿を表現しているようで面白い。
夏の終わりの新潟記念もまた豊かな個性あるメンバーが出揃った。
日本ダービー2番人気5着のブラストワンピースが断然の支持を集めた。ダービーでは不利を受けており、力は世代最上位であり、菊花賞のステップに選んだレースが新潟記念。ハンデ54キロでは断然人気も納得だ。
古馬ではグリュイエールも支持を集める。1年ぶりに出走した準オープン府中Sを快勝、重馬場のエプソムCで3着と重賞で通用する力を見せた。こちらもハンデ55キロは手頃な斤量だ。
3番人気のセダブリランテスは中山金杯1着以来の復帰戦。実績上位で斤量57.5キロ。
以下、小倉記念から出走するストーンウェア、重い馬場が得意なエンジニア、七夕賞勝ちのメドウラーク、中日新聞杯勝ちのメートルダールら13頭が出走した。
信濃川の如く長い向正面の直線を一杯に使う芝外回り2000m戦は新潟競馬場の個性豊かなコースの中でもシンプルなワンターン2000m、こんなチャンピオンコースは新潟競馬場にしかない。
向正面奥からスタート。先手を取るのはベテランのマイネルミラノ。2015年の新潟記念で逃げて2着とこのレースに実績がありながらハンデ56キロ、8歳の今シーズンもAJCC3着など単騎で行けば粘る力は十分だ。
番手は内から同馬主のマイネルハニー。ラフィアン2騎の巧みな作戦にスタートを決めたスズカディープが絡み、外からセダブリランテス、中からレアリスタが迫る。マイネルハニーとこれらとの位置取り争いが関係したのか、マイネルミラノはじわっと先行しながら後ろを離して徐々に飛ばしていく。3列目に藤田菜七子騎手が乗る軽量ベアインマインド、ストーンウェア、グリュイエール、エンジニアが並び、メドウラーク、最内枠から外目に出したブラストワンピースが続く。ブラスワンピースを追うのはインからショウナンバッハ、外にメートルダール。
長い向正面を流すマイネルミラノのペースは3ハロン目から11秒6、11秒7、11秒9と平均的なラップだ。新潟競馬場のラップとしてはミドルペースの1000m59秒2。マイネルミラノが引っ張る馬群は動きもなく、淡々とコーナーを回り、直線コースを迎える。
マイネルミラノはラチ沿いを走り、ブラストワンピースが馬場の大外へ持ち出す。馬場一杯を使った直線の叩き合いが繰り広げられる。マイネルミラノを追って番手のマイネルハニーが馬場の真ん中から抜け出し、メドウラークが馬場の内目から追いかけ、ストーンウェア、ショウナンバッハ、セダブリランテスらが真ん中で叩き合う。懸命に抜け出そうと叩き合う古馬の中からメドウラーク、ショウナンバッハが抜けてきて先頭に立ったところに大外からブラストワンピースが気分よく伸びてきた。並ぶ間もなく先頭に立ったブラストワンピースが一瞬でこの叩き合いにケリをつけた。メートルダール、エンジニアがやや遅れて伸び、メートルダールが2着、ショウナンバッハが3着に粘り込んだ。勝ち時計1分57秒5(良)。
全着順
第54回農林水産省賞典新潟記念(GⅢ)3歳以上オープン(新潟・芝2000m)
ブラストワンピース | ||||
メートルダール | ||||
◯地ショウナンバッハ | ||||
エンジニア | ||||
メドウラーク | ||||
◯外ストーンウェア | ||||
セダブリランテス | ||||
ベアインマインド | ||||
マイネルハニー | ||||
グリュイエール | ||||
◯地スズカディープ | ||||
レアリスタ | ||||
マイネルミラノ |
1~3着馬コメント
1着ブラストワンピース(1番人気)
菊花賞を目指し、始動戦に古馬相手の新潟記念を選び、見事に快勝。ごちゃつく最内枠からのスタートも馬群が縦に伸びる向正面の前半戦で外に出し、3、4角も終始外を回りながら、直線は馬場の大外を全く異なる手応えから突き抜けた。残り400mから200mの10秒7で先頭まで並びかける瞬発力は目を見張るものだった。池添謙一騎手もイチかバチかの競馬だが自信を持って決め打ちした印象で、勝負強さが持ち味の池添騎手らしい競馬だった。
2着メートルダール(6番人気)
タイトルホルダーだけにやや人気の盲点になった印象。残り400m地点までブラストワンピースとエンジニアに進路を阻まれて追い出しが遅れたためにブラストワンピースが抜け出した後にできたスペースを抜けることになり、先頭のブラストワンピースには及ばなかった。それでも前の組が苦しくなった最後の1ハロン12秒2を力強く伸びてきたあたりは力あるところを見せてくれた。瞬発力勝負では踏み遅れることもあるが、力勝負なら引けはとらない。
3着ショウナンバッハ(13番人気)
マイネルハニー、ストーンウェア、セダブリランテスらに囲まれた狭いスペースを抜け出し、一旦先頭の見せ場を作った。狭いスペースにも怯まずに入り、そこで叩き合って抜け出してくる、前半に脚が溜まったこともあるが、7歳ベテランらしいしぶとい競馬だった。
総評
ワンターンの2000m、日本唯一の2000mチャンピオンコースで行われた新潟記念は今年も最後の直線で馬場を一杯に使った叩き合いが見られ、力が入るレースとなった。650mある最後の直線は横に広がるだけでなく、抜け出し合いも力が入るものだ。一旦抜けては脱落し、次が抜けても後ろから来る。見ている側も手に汗握る攻防はチャンピオンコースらしい。マイネルミラノが逃げ、マイネルハニーが先頭に立ち、ストーンウェア、メドウラーク、セダブリランテス、ショウナンバッハらが並び、ショウナンバッハが抜け、メドウラークが粘り、大外からブラストワンピースが強襲。遅れてメートルダールが追いかける。攻防ある競馬こそ、チャンピオンを決めるレースに相応しい。
チャンピオン、そうサマー2000シリーズはこのレースで閉幕。インの馬場の悪いところから一旦抜け出しながら5着だったメドウラークは七夕賞優勝と合わせてサマー2000チャンピオンとなった。7歳牡馬、立派な走りだった。
そして、秋に大輪を咲かせたいブラストワンピースの可能性を秘めた走りでナツケイバは幕を閉じた。
さあ、何日か寝れば秋競馬がやって来る。
(勝木淳)