【重賞回顧】第43回エリザベス女王杯(GⅠ)

支配者と逃れるもの。逃げているのは一体だれなのか。第43回エリザベス女王杯

 

逃げるとはなにを意味するのか。

先手必勝。とにかく先頭を走り続けることがもっとも有利な戦法である。とは競馬においては必ずしも当てはまらない。将来を見据え、もっと強い相手と当たることを考えてという意図から、逃げて勝ちあがった馬に脚質転換を試みるシーンは数えきれない。そもそも逃げるのは嫌いなのではと思わせるほど、ほぼ逃げない騎手もいるようだ。

その一方で逃げなければ競馬にならないという馬もいる。現役なら福島記念出走のマルターズアポジー。かつてターフを賑わせたツインターボなどは「いったい、彼はなにから逃げているんだ」と思わせるぐらい徹底していた。

京都のGⅠは逃亡劇が思わぬ結果を引き出すことが多い。天皇賞(春)は逃げではないが、ビートブラックが勝ち、イングランディーレは横山典騎手が口笛を吹きながら乗って逃げ切った。テイエムプリキュアクイーンスプマンテが後続を引き離し、ブエナビスタの追撃を封じ、行った行ったのワンツーフィニッシュを決めた。11、12番人気の大波乱。今からたった9年前のエリザベス女王杯だ。あの日と同じ秋空が広がる京都競馬場で第43回エリザベス女王杯が行われる。

 

ミルコ・デムーロ騎手が乗るモズカッチャンは予定した府中牝馬Sを使えず、札幌記念から直行でここに挑む。昨年の勝ち馬、牡馬相手のGⅡで3着に入れる実力最上位の牝馬だ。

クリストフ・ルメール騎手とコンビ継続のノームコアは秋華賞トライアル紫苑ステークスを圧勝。秋華賞をパスしてここに挑むという3歳としては異色のローテーションで挑戦。先行して器用に抜け出す高い競馬センスがルメール騎手とお似合いの印象。

ジョアン・モレイラ騎手は惜敗続きのリスグラシューとコンビ結成。これまでGⅠ2着4回、あと一歩届かない悲運の牝馬。マジックマンのひと押しでその切ない戦歴に別れを告げたい。

京都大賞典では牡馬相手に2着好走のレッドジェノヴァは池添謙一騎手とコンビ継続。夏の北海道シリーズの上がり馬。京都大賞典の勝ち馬は現役最上位クラスのサトノダイヤモンド、この好走は見逃せまい。

秋華賞経由の3歳馬はこのレースのパターンのひとつ。最先着(3着)のカンタービレはクリスチャン・デムーロ騎手とのコンビで挑む。

以下、牡馬相手の好走が光るコルコバード(浜中俊騎手)、フロンテアクイーン(蛯名正義騎手)、スマートレイアー(武豊騎手)ら秋の女王決定戦に17頭がエントリーした。

 

エリザベス女王杯の舞台、京都芝2200mはスタート後に正面直線をゆったり走るコースで、先手を取りたい馬にとって難しいコースではない。レースでは戦前の予想通り岩田康誠騎手とクロコスミアが先手を主張した。内のプリメラアスール(幸英昭騎手負傷のため乗り替わり藤岡佑介騎手)も行きたい素振りを見せるが、クロコスミアは譲らない。前走府中牝馬ステークスで番手に控え、踏ん張れなかった経験から今日は逃げにこだわるようだ。外からミスパンテール(横山典弘騎手)が接近、クロコスミアは内と外を牽制するようにややペースを上げる。この動きを察したプリメラアスールミスパンテールの両騎手は馬を抑え、クロコスミアにハナを譲った。

1角に入り、後ろの2頭がおさまったとみるや、クロコスミアはコーナーでペースをダウンさせる。岩田騎手の指示に従順だ。抵抗する素振りもない。

この3頭の動きによって、レースはスローペースで流れることが決まった。そして後ろの組は折り合いに専念しなければならなくなる。カンタービレモズカッチャンノームコア、先行直後にいた有力馬の騎手は手綱を懸命に引く。ノームコアのルメール騎手はケンカを避けて順位をやや上げた。この後ろにフロンテアクイーンコルコバードレッドジェノヴァの池添騎手はインの空いたスペースを使って前に進ませて馬のストレスを散らす。

外の壁がないスペースにいるリスグラシューは折り合いがついている。モレイラ騎手の馬とのコンタクトのとり方は独特だ。

前半の1000m通過61秒4の緩い流れ。

クロコスミアは3角上りで後ろをやや離しにかかった。京都は3角で上って、4角で下るから3角は最も動きにくい。このペースアップにミスパンテール以下はついていかない。射程圏内を探りながらも深追いはできないからだ。残り800m、クロコスミアが仕掛けるにしてもまだ早いのは確かだ。

下り坂でミスパンテールノームコアレッドジェノヴァモズカッチャンらが追いかけてくる。生垣の向こう、やや急なカーブから直線に入った。各馬が外を意識する隙にクロコスミアは後続を一気に突き放しにかかった。引きつけるという意識はない。最後の直線にかかったら、そこで勝負をつけようということだろう。

コーナーワークを利した仕掛けによってクロコスミアノームコア以下との間に距離ができる。岩田騎手はここで勝負をつけた。今年こそは逃げ切りかと思わせたとき、折り合い十分だったリスグラシューがこれまでの悔しさを解き放つかのように外を駆け抜けてくる。しかし、ここでクロコスミアも譲れない。尽きかけたスタミナのなか、それでも絞り出すように気力を見せる、逃げ馬の強みはここにある。後ろから馬が来れば、またファイトするのだ。リスグラシュークロコスミア、互いにこれまで溜めてきた悔しさと先頭でゴールしようという意地をぶつけ合いながら、ゴール板を通過した。この戦い、僅かに制したのはリスグラシューだった。クロコスミアは昨年に続き2着、3着は横一線からモズカッチャンが最後に抜けた。勝ち時計2分13秒1(良)。

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全着順

第43回エリザベス女王杯(GⅠ)3歳以上オープン・牝馬(京都・芝2200m)

着順
馬名
性別・馬齢
騎手
着差・タイム
1
リスグラシュー
牝4
J.モレイラ
 2:13.1
2
クロコスミア
牝5
岩田康誠
クビ
3
モズカッチャン
牝4
M.デムーロ
3
4
レッドジェノヴァ
牝4
池添謙一
クビ
5
ノームコア
牝3
C.ルメール
クビ
6
カンタービレ
牝3
C.デムーロ
クビ
7
フロンテアクイーン
牝5
蛯名正義
ハナ
8
コルコバード
牝5
浜中俊
クビ
9
スマートレイアー
牝8
武豊
1/2
10
ヴァフラーム
牝6
川又賢治
クビ
11
ワンブレスアウェイ
牝5
津村明秀
クビ
12
ミスパンテール
牝4
横山典弘
クビ
13
◯地レイホーロマンス
牝5
福永祐一
1/2
14
アドマイヤリード
牝5
藤岡康太
アタマ
15
エテルナミノル
牝5
四位洋文
1.1/4
16
ハッピーユニバンス
牝6
松若風馬
3.1/2
17
プリメラアスール
牝6
藤岡佑介
2

 

 

1~3着馬コメント

1着リスグラシュー(3番人気)

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クラシック戦線からオープンを走り続け、GⅠは2着4回。堅実に末脚を繰り出せても最後の最後に伸びて届かずを繰り返してきた。武豊騎手もこの馬のよさを十分引き出してはいたが、今回はモレイラ騎手への乗り替わりが最後のピースを埋める格好になった。道中は遅い流れも折り合いは完璧。4角でたまらず動いた前の組を射程圏に、踏み遅れないような完璧な仕掛けをみせた。クロコスミアと岩田騎手の絶妙な支配に抵抗できたのは、モレイラ騎手のレース運びにあった。

 

2着クロコスミア(9番人気)

スタート直後の争いを制し、後ろを一旦引かせてからペースを落として、スローペースにはめる。このレース、岩田騎手とクロコスミアの支配は完璧だった。後ろが動くより先に先に動き、4角のコーナリングでほぼ勝負を決めていた。ただⅠ頭、この支配をかいくぐったリスグラシューには屈したが、それも無抵抗ではなかった。脚色劣りながらも最後までファイトした姿は胸を打つ。昨年に続いて2着。またも悔しい結果になってしまったが、勝ち馬同様に讃えられていい競馬だった。

 

3着モズカッチャン(1番人気)

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ローテーションが狂った影響があったのだろうか。普段は折り合いを苦にしない馬が遅い流れに折り合いを欠く姿があった。ノームコアミスパンテールレッドジェノヴァカンタービレなど同じような位置にいた馬たちとの叩き合いに勝っての3着は意地を見せたが、クロコスミアの仕掛けに置かれなかった昨年と比較すると、やはり絶好調には遠かったか。

 

総評

競馬の逃げには色々ある。折り合いが難しい、怖がり、緩急がつかない、馬の弱点を打ち消す意図から取る作戦もそうだが、逃げるとは、先手を取るとはレースを支配するということなのだろう。常に目標にされるというデメリットを背負いながら、それでも先手を取るのはこの支配権を手にするためだ。クロコスミアの逃げはそれを教える。この馬のペースに有力馬のなかにはリズムを崩す馬が多かった。このクロコスミアの支配から唯一、逃れたのが勝ったリスグラシュー。折り合い、進路取りにミスはなかった。そうしたレースをしてもあと一歩足りなかったリスグラシューがタイトルを手中に収めた。この事実は大きい。

日本のGⅠを初めて勝ち、しみじみとインタビューに答えるモレイラ騎手とリスグラシューにひとまず拍手を送りたい。

 

 

(勝木淳)

(写真・かぼす)

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