【重賞回顧】第38回ジャパンカップ(GⅠ)

日本競馬史に残る衝撃レース。絶対に忘れられない、この競馬。第38回ジャパンカップ

 

吸い込まれそうな濡れた黒色。大きく美しい楕円の形。

その瞳からはどんな景色が見えるのだろうか。そして、その景色をどんな気分で見ているのか。

道悪のシンザン記念で大外をまるで良馬場の芝の上を走るような末脚を繰り出したとき。桜花賞では後方からノーステッキで飛ぶような走りでラッキーライラック以下を完封したとき。距離への不安が囁かれたオークスで桜花賞までのイメージを一新する先行策から抜け出したとき。夏を越え、ステップレースを飛ばして挑んだ秋華賞で大外を回って牝馬三冠を達成したとき。

彼女、アーモンドアイの瞳はどんな景色を映し、どんな感情を抱き、この1年を過ごしてきたのか。そして、今日、彼女はまたも誰も見ぬ景色をその瞳に映し出してみせた。これまで以上の、本当に誰も見たことがない景色を眺め、なにを思ったのか。いつか聞いてみたい。

 

第38回ジャパンカップは競馬史において長く語り続けられるにちがいないレースとなった。

ジャパンカップといえば海外からの参戦馬。今年は2頭。アイリッシュダービーでクラックスマンを破り、イギリスセントレジャーも勝ったアイルランドのカプリは今年は厩舎の事情で順調さを欠いたが、この秋は凱旋門賞で5着。エネイブルには離されたが、2着とは差がない競馬をした。来日後も意欲的な調教を消化。エイダン・オブライエン調教師が連れてきた久々の大物だ。

 

もう1頭はこの夏に急激に力をつけたイギリスのサンダリングブルー。遠征したカナディアンインターナショナルで2着。このレースの好走が日本の速い馬場への適性を示すことはジャパンカップの歴史が証明している。

 

今年は北海道からハッピーグリンが遠征。今年は東京のセントポーリア賞を勝ち、中央のクラシックトライアルにも挑戦。夏の札幌では1000万下のSTV賞を勝ち、高い芝適性を証明した。

 

アーモンドアイや海外、地方勢を迎える形となった古馬勢は、天皇賞(秋)ではレースにならなかったスワーヴリチャード、京都大賞典で久々復活勝利を果たしたサトノダイヤモンド、天皇賞(秋)で先手を奪って3着好走のキセキ、前年覇者のシュヴァルグランなど、合わせて14頭が顔を揃えた。

 

9万人の観衆の目の前、2400mのスターティングゲートはスタンドからの歓声との戦いでもある。エキサイトする馬も多く、出遅れてしまうケースも多い。

オークス、秋華賞でも経験しているとはいえ、アーモンドアイは誘導馬の前に先出ししたが、スタート直前の輪乗りではやや気持ちを昂ぶらせているようだ。

ゲートが開く寸前に立ち上がりかけたアーモンドアイをクリストフ・ルメール騎手が落ち着かせ、スタートは五分に切ることができた。

天皇賞(秋)同様に迷うことなくハナに行ったのがキセキ。外からノーブルマーズが続き、ラチ沿いのインにアーモンドアイの黒いマスクが覗く。スタンドが騒然とするなか、アーモンドアイはオークスよりさらに積極策、インの3番手に収まっていった。

直後の外にガンコ、その内から出遅れ気味だったスワーヴリチャードが挽回し、アーモンドアイの直後のポジションを取りに行った。その後ろの集団はウインテンダネス、内にハッピーグリンシュヴァルグランが外に並ぶ。やや馬群が切れて、サトノダイヤモンドが後ろの馬群の先頭を走り、サウンズオブアースサトノクラウンが続く。後方にカプリミッキースワローサンダリングブルーが最後方を走る。

 

向正面で迎える最初の1000m59秒9は馬場とクラスを考えれば、スローペース。ここまでは12秒台のラップが続く緩い流れだった。そう、ここまでは。

残り1400mからキセキと川田雅将騎手のじわりとした仕掛けが始まった。向正面の緩い下りを利用して、11秒8-11秒7と徐々にラップをあげる。アーモンドアイノーブルマーズが深追いしにくい地点でリードを広げた。アーモンドアイは、パトロールVTRで確認すると、キセキに隠れるほど真後ろを走る。キセキとの距離を詰めず離れず、じっと集中して追走しているようだ。

3角から4角にかけて、11秒4というラップを刻むキセキノーブルマーズサウンズオブアースなど周囲の馬たちが手応えをなくしていく。アーモンドアイは手応え変わらず、まだ動かない。

4角から直線入り口、11秒0という最速ラップを叩き、キセキアーモンドアイを離しにかかる。そこに応戦するアーモンドアイスワーヴリチャードサトノダイヤモンドシュヴァルグランアーモンドアイキセキを追う。

最後の直線、一旦はキセキが突き放す。しかしその瞬間、ルメール騎手がついにアクションを起こし、アーモンドアイキセキの外へ導く。アーモンドアイはあっという間にキセキを捕らえる。スワーヴリチャードシュヴァルグランは突き放され、サトノダイヤモンドは力尽きた。

女王がその真価を見せたとき、対抗できる馬はターフのどこにもいなかった。後続はキセキが2着を守り、スワーヴリチャードが3着、古馬たちはバラバラと敗北を噛みしめるようにゴール板を通過していく。

ロンジンの大時計が示した勝ちタイムは2分20秒6(良)。私はこのレースが何メートルのレースだったか一瞬分からなくなった。

アーモンドアイはコースレコード、いや世界レコードでジャパンカップを勝ってしまったのだ。彼女の瞳にはどんな景色が映っていただろうか。

 

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全着順

第38回ジャパンカップ(GⅠ)3歳以上オープン(東京・芝2400m)

着順
馬名
性別・馬齢
騎手
着差・タイム
1
アーモンドアイ
牝3
C.ルメール
 R 2:20.6
2
キセキ
牡4
川田将雅
1.3/4
3
スワーヴリチャード
牡4
M.デムーロ
3.1/2
4
シュヴァルグラン
牡6
C.デムーロ
クビ
5
ミッキースワロー
牡4
横山典弘
2
6
サトノダイヤモンド
牡5
J.モレイラ
クビ
7
□地ハッピーグリン
牡3
服部茂史
1.3/4
8
ウインテンダネス
牡5
内田博幸
クビ
9
サトノクラウン
牡6
W.ビュイック
2
10
□外サンダリングブルー
セ5
F.ベリー
5
11
□外カプリ
牡4
R.ムーア
1.3/4
12
ガンコ
牡5
蛯名正義
3.1/2
13
ノーブルマーズ
牡5
高倉稜
3
14
サウンズオブアース
牡7
田辺裕信
2.1/2

 

 

1~3着馬コメント

1着アーモンドアイ(1番人気)

結果的に先行馬しか残れない競馬で3番手を追走するあたり、さすがルメール騎手だ。キセキの真後ろにつけ、無駄なことをせずに走るアーモンドアイ自身の精神的な強さも感じた。楽々とキセキを捕らえたようだが、残り1400mを加速していくスローの持久戦を追走しており、アーモンドアイは瞳だけではなく、これでもかと大きく鼻を開き、全力で走る姿も印象的だった。彼女とて楽なわけではない。しかし、彼女が全力を出したから、競馬史に残るレースとなったのだ。その瞳には懸命に戦う自身の姿が見えていたのかもしれない。

 

2着キセキ(4番人気)

レースの勝ち時計2分20秒6はアーモンドアイのものではあるが、演出したのはキセキで間違いない。前半は後ろを牽制するようにゆっくり入り、後ろが動きにくい残り1400m地点からレースをスピード勝負へ変化させた。スローペースの持久力戦はもっともキセキが力を出せる流れだった。残り200m地点でアーモンドアイには交わされるものの、後続は見事に完封したのはその証明である。

 

3着スワーヴリチャード(2番人気)

天皇賞(秋)はスタート直後にぶつけられ、集中力が切れた走りになってしまったが、今回はスタートで遅れながら、アーモンドアイをマークするポジションまで前半押しあげた。結果的に位置を取りに行った作戦は、先行馬で決まったことを考えれば成功だった。しかし、アーモンドアイに並びかけるような場面はなく、現時点では力負けを喫した印象。さらなるパワーアップを求められる結果だった。

 

 

総評

アーモンドアイのすごさ、2分20秒6という時計については他で語られるだろう。印象に残ったのは、アーモンドアイに離されてしまった古馬たちのゴール前の走りだった。他と叩き合えないぐらいに力尽き、競走に見えぬバラバラと入線した姿にアーモンドアイの強さがどれほどだったのかが分かる。日本のトップレベルがバテるほどの流れをアーモンドアイは最後まで走り抜いた。もはや、国内に敵はいないだろう。

世界的にも凱旋門賞馬エネイブルやオーストラリアで29連勝中のウィンクスなど傑出した牝馬が登場している。その流れのなかにいるアーモンドアイはまだ3歳。世界へ飛び出して欲しい。

海外からやってきたカプリサンダリングブルーにはさすがに厳しすぎる時計となってしまったか、後方でのゴールとなってしまった。そんな厳しいレースで道営所属ハッピーグリンの7着は大健闘ではないだろうか。改めて中央の芝適性への高さを示した。

 

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(勝木淳)

(写真・かぼす)

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