【重賞回顧】第63回有馬記念(GⅠ)

平成という時代。その終わりとその先を見つめて

 

平成元年12月24日。平成最初の有馬記念は雨、冬枯れの芝生の上で柴田政人騎手イナリワンと武豊騎手スーパークリークによる死闘が繰り広げられた。結果は24センチ差でイナリワンスーパークリークを下した。

その翌年、平成2年から日本で供用されたサンデーサイレンスが日本競馬の運命を大きく変えた。平成の競馬はサンデーサイレンスの時代だった。

10年後の平成10年12月27日。曇り空に鮮やかな緑の芝生。主役は3歳(当時4歳)シーズンを苦しんだグラスワンダーの復活だった。2着メジロブライト、3着に顔をのぞかせたステイゴールドは11番人気だった。

日本競馬を変えたサンデーサイレンスが平成14年に16歳でこの世を去った。アフターサンデーは戦国時代といわれたが、ほぼサンデー直系ばかり。改めてサンデーサイレンスの血の濃度を痛感した。

平成20年12月28日は青空の下を躍動する黄金の女王ダイワスカーレットによって圧倒的な逃走劇が演じられた。その父はサンデーサイレンスが遺したアグネスタキオン。2着はドン尻待機の最低人気アドマイヤモナーク、競馬は実に難しい。

そのアグネスタキオンを超えるサンデーサイレンスの傑作ディープインパクトが種牡馬デビュー。現代日本競馬の中心には今もディープインパクトがいる。

 

そして、平成30年12月23日。第63回有馬記念は翌年4月の天皇生前退位が決まり、平成最後の有馬記念と呼ばれた。国民すべてが平成最後を自覚、それを認め、楽しめる幸せなときを迎えた。

 

最終的な天候の発表は曇りだが、午後は雨と曇りを繰り返す不安定な天候。天候発表が雨ならば、それは平成元年以来のこと。平成の始まりと終わりの有馬記念当日が雨。さすがはドラマチックグランプリ。憎い演出をしてくれた。

 

平成最後のグランプリは暗くて霞みがかかった向正面からスタートが切られる。一斉のスタートのなか、ジャパンカップで復調気配をみせた中山巧者ミッキースワローが出遅れて後方待機を決めた。外枠からどうレースを作るのか注目されたジャパンカップのスーパーレコード演出者キセキもスタートは出遅れ加減。こうなれば、すぐに3角を迎えるコースでは内枠勢が圧倒的優位。障害界の絶対王者、今年の夢をファンから託されたオジュウチョウサンと武豊騎手が騎手自ら引いた1番枠を利して先行態勢をとる。それについていくのがこの秋、凱旋門賞に挑戦したクリンチャー。外からサマーグランプリ宝塚記念を制したミッキーロケットが並びかける。

これらを制してハナに立ったのはやはりキセキだった。最初の3、4角で外を回る強引な形であってもハナを狙うキセキは自らレースを作らないと活路を見出せない。腹を括った川田将雅騎手の固い決意を感じる。

 

先団4頭の後ろにインから一昨年のダービー馬マカヒキ、間に昨年のエリザベス女王杯馬モズカッチャン、外に有馬記念2着があるサウンズオブアースの3頭が並ぶ。その後ろに一昨年のグランプリホースサトノダイヤモンド、3歳クラシックは無冠ながら常に上位人気に押されたブラストワンピースの2頭が追走。後方には8歳牝馬、すっかり白くなったスマートレイアーパフォーマプロミス、そしてレイデオロブラストワンピースの真後ろを走る。さらに後ろには中山巧者のサクラアンプルール、ステイヤーズステークスを勝った異色のスウェプトオーヴァーボード産駒リッジマン、昨年のジャパンカップ馬シュヴァルグランがいる。そして、ドン尻待機はミッキースワローだ。

 

キセキと川田将雅騎手は今回も変幻自在。正面スタンド前では後続を引きつけ、後ろを団子状態にさせたかと思えば、2角から引き離しにかかる。1000m通過地点の1、2角中間、コーナー部分で速いラップを刻んだことで、後ろは追いかけようにも追いかけられない。そこから向正面にかけて大逃げの形に持ち込んだかと思えば、一気にペースダウン。十分に息を整える。

正面直線部分では団子だった馬群が徐々に解けて縦長になる。この姿に観衆も乗っている騎手もペースを狂わされる。このとき、実はペースはガクンと落ち、いわゆる縦長のスローペースに陥っている。

そして、3角手前の残り1000m。キセキはジャパンカップの再現を狙ってペースをジワリとあげていく。オジュウチョウサンを押しながら武豊騎手もキセキとの差を懸命に詰めにいく。モズカッチャンミッキーロケットもそれに呼応。3、4角中間地点、いわゆる三分三厘から外をまくるのがブラストワンピースオジュウチョウサンモズカッチャンミッキーロケットを飲み込みにいく。後続ではレイデオロが押し気味に追走。4角でC.ルメール騎手のムチが飛ぶ。その後ろ、馬群に突っ込んで追い上げるのがシュヴァルグラン

 

早めに11秒台後半を連続して刻んでキセキが突き放しにかかるが、直線、坂下から手応えが怪しくなり、川田将雅騎手が腰を入れて叱咤する。そこにブラストワンピースが外から迫り、一旦は離されたレイデオロが盛り返してくる。モズカッチャンを競り落としたミッキーロケットも追う。坂をあがってキセキミッキーロケットを飲み込んだブラストワンピースが独特な頭の高い走りで懸命に粘る。追うレイデオロ。そこにやってくるシュヴァルグランが3番手にあがる。

平成最後の有馬記念。そのゴールはブラストワンピースに乗った池添謙一騎手による歓喜のガッツポーズで締めくくられた。クビ差及ばなかったレイデオロが2着。追い込んだシュヴァルグランが3着だった。時計は2分32秒2。

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全着順 

第63回有馬記念(GⅠ)3歳以上オープン(中山・芝2500m)

着順
馬名
性別・馬齢
騎手
着差・タイム
1
ブラストワンピース
牡3
池添謙一
 2:32.2
2
レイデオロ
牡4
C.ルメール
クビ
3
シュヴァルグラン
牡6
H.ボウマン
1.1/4
4
ミッキーロケット
牡5
O.マーフィー
1.1/2
5
キセキ
牡4
川田将雅
3/4
6
サトノダイヤモンド
牡5
B.アヴドゥラ
クビ
7
◯地サクラアンプルール
牡7
田辺裕信
クビ
8
モズカッチャン
牝4
M.デムーロ
3/4
9
オジュウチョウサン
牡7
武豊
アタマ
10
マカヒキ
牡5
岩田康誠
アタマ
11
ミッキースワロー
牡4
横山典弘
1/2
12
◯地リッジマン
牡5
蛯名正義
2
13
スマートレイアー
牝8
戸崎圭太
クビ
14
パフォーマプロミス
牡6
C.デムーロ
1.1/4
15
クリンチャー
牡4
福永祐一
1/2
16
サウンズオブアース
牡7
藤岡佑介
4

 

 

1~3着馬コメント

1着ブラストワンピース(3番人気)

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キャリア7戦目の有馬記念制覇。終わってみれば有馬記念も3歳馬だが、こちらは早くから大物現ると注目されながら、ダービーでは不利を受けて5着。夏の新潟記念で古馬を大外一気で一蹴したが、1番人気の菊花賞は伸びきれずに4着。歯がゆい1年を喜びで締めくくった。器用さが疑問視されたが、中山2500mでも中団の外をスムーズに走り、早めに仕掛けて前で残る組を捕らえ、後ろからくるレイデオロを押さえ込んだ。これ以上ない仕掛けのタイミングは有馬記念4勝、グランプリの勝ち方を最も知る池添謙一騎手の経験がものをいった。ひ弱さやトモの緩さから切れ味身上だった馬が持続的に速いラップを刻める馬へ変身を遂げた。これがGⅠ初制覇の大竹正博厩舎の仕上げも見逃せない。キャリアはたった7戦。花開いた素質馬は来年の競馬を牽引していくだろう。

 

2着レイデオロ(1番人気)

東京のイメージも強いが、デビュー当時は中山で強いレースを見せており、中山巧者だという声もあった。後続が追いあげにくい流れで手応えが早めに悪くなりながら最後までブラストワンピースを追い詰めた、そのしぶとさはさすがチャンピオンホースだが、コーナーの走りなどから、やはり広いコースに向いているのかもしれない。最後一杯になりつつあったブラストワンピースと同じ脚色になったあたりも距離面の課題を感じさせた。その状況ながら2着を確保。来年も現役続行のようで、中距離界で活躍してくれるだろう。

 

3着シュヴァルグラン(9番人気)

右回りや直線の短いコースへの適性が疑問視され、9番人気という評価だったが、これは結果的に間違っていた。ジャパンカップでキタサンブラックを一気に差しきった実力は未だ健在だった。不利な外枠で置かれ気味になりながらも最後は差を詰めてきた。不器用なところもあって中山2500mは適条件ではないが、まだまだ終わってはいない。そして、この馬、H.ボウマン騎手と本当に手が合う。豪州で活躍する豪腕ジョッキーの厳しい当たりがこの馬特有の気を抜くような面を出させないのだろう。

 

 

総評

オジュウチョウサンは今年の有馬記念を盛りあげた主役であることは否定できない。1000万下の南武特別を勝ったばかりの馬が有馬記念に挑戦するのは無謀だといわれるのは仕方ない。それでも挑戦するから有馬記念の主役になれた。このレースはファン投票によって選出された馬が出るドリームレース。ファン投票3位での出走に異論はない。結果的にはキセキに離される形にはなったが、着順は9着。単に南武特別勝ちの馬だったら9着にはならなかっただろう。それが障害界の絶対王者オジュウチョウサンが証明したことだった。障害で鍛えた経験と底知れぬスタミナ、オジュウチョウサンが持っているもの全てを出したからこその9着なのだ。

競馬ファンは夢を見る。どうして夢を見るのか。夢を見ていい場所だから夢を見るのだ。なぜ、競馬は夢を見ていいのか。それは競馬が「やってみなければ分からない」という答えが見えない世界だからだ。分かりやすいものはもういらない。分かりすぎる世の中も辛すぎる。だから、やってみなきゃ分からないものを求める。オジュウチョウサンに託した夢は、私たち現代を生きる人々が分かりすぎる世界を脱し、分からない世界への渇望の象徴だったにちがいない。

平成とは、技術の進化とともに、透明になっていく世界と、それに飽きていく時代だった。だからこそ、競馬は次の時代も変わらず続いていく。

 

 

(勝木淳)

(写真・かぼす)

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