フェブラリーステークスのお供に!女性騎手が主人公の小説『風の向こうへ駆け抜けろ』

事実は小説よりも奇なり

 

競馬小説、というとあなたはなにを思い浮かべるだろうか。

名作と呼ばれる作品はいくつかあるが、今回ご紹介する小説『風の向こうへ駆け抜けろ』は、今だからこそ読みたい物語であると言いたい。

 

というのも2019年最初のG1フェブラリーステークスに藤田菜七子騎手が騎乗するから、である。

G1にJRA女性騎手が騎乗するのはこれが初めてのこと。

新聞メディア等で詳しく報道されているが、馬主のDr.コパこと小林祥晃氏、自らが公言し話題を呼んでおり、オジュウチョウサンの有馬記念に負けず劣らず、歴史的なレースになるのは間違いない。

 

事実は小説よりも奇なり、とはいうが、デビューからわずか4年で50勝を達成した女性騎手が有力馬にまたがってG1に挑戦するというシナリオは、今回ご紹介する小説『風の向こうへ駆け抜けろ』のような物語の中だけかと思っていた。マニアックな例えで言うと野球狂の詩でいう水原勇気みたいなものだ。

それが、デビューしてからあれよあれよと勝ち星を増やし、地方で場数を踏み、世界で経験を積み、JRA女性騎手最多勝をまだデビュー3年目の藤田菜七子騎手は更新してしまった。

リアル世界の圧倒的な現実離れした実績は、フィクションでは追いつけない。逆に嘘臭く、リアリティがなくなってしまう。

だから決して、『風の向こうへ駆け抜けろ』は競馬ファンタジーではない。場合によってはあり得ることなのだ。

そしてそれが現実のものとなったのが、今度のフェブラリーステークスというわけである。

 

話題沸騰中の藤田菜七子騎手もお気に入りの本作『風の向こうへ駆け抜けろ』は、地方競馬でデビューする新人女性騎手の物語だ。

女性騎手のデビューというと、競馬を知っている人ほど、近年デビューしたJRAの藤田菜七子騎手や名古屋競馬の木之前葵騎手らの活躍が思い浮かぶだろう。

しかし、この小説では彼女らは出てこない。むしろいない世界と考えた方が自然だ。

つまり、競馬という男社会にたった一人で挑んでいく未成年の新人女性騎手を描いている。

舞台設定は赤字垂れ流しの市営の地方競馬。若干、一昔前の地方競馬像のような気がしないこともないが、公営競馬独特の場末感がよく出ている。

この競馬場には女性騎手はいない。だから、誰もが保守的になり、女は通用しないと言い切られる。しかも厩舎は場末感あり、個性的すぎる厩務員とどうにもならない馬だらけで、これがまたツライ話、主人公のデビュー戦までいい話がまったくない。絶望感すらある。

騎手の実力を示すには、勝つことが一番だ。

とはいえ、馬がいなくてはレースにすら、出れない。前半はデビューまでの人間関係のつながりや個々のトンガリ具合がよくわかり、置かれて行く状況のひどさが丁寧に描写される。

いやがらせもたくさん受ける。辛いことはたくさんあり、苦労しながらも勝利へ邁進する姿に背中を押したくなるし、また、ひたむきな主人公の姿をみた厩務員の仲間たちが人生を再生させていこうと一歩踏み出すところも見どころである。

馬主、調教師、厩務員、そして騎手との関係性、厩舎の雰囲気や馬の様子は緻密な取材が活かされているのか、丁寧な描写が空気感がリアルに伝わってくる。

レースに出れるようになると、迫力あるレースシーンがしっかりと描写され、後半は大舞台に進出するようになり、おなじみの競馬場やフィリーズレビュー、桜花賞と言った名称があらわれ、テレビ中継を見慣れている人にとっても、大舞台での舞台裏には馬柱の裏側に一頭一頭ドラマがあることがよくわかる。

また、その中で、事あるごとに主人公がけなされるシーンが出てくる。女が男に勝てるのか?と。

もしも、JRAで藤田菜七子騎手の活躍がなかったら、また見方が変わっていただろう。

しかし、今なら、読者諸氏はきっと、一つの答えを導くことが出来るだろう。

 

この作品を読むと、女性騎手は少なからず、しなくてもいい苦労をしているのだろうなあという思いになる。

文庫本の巻末では本作がお気に入りの藤田菜七子騎手が解説を書いているが、そこにも似たようなことが書かれている。苦労と努力で勝ち取った実績、きっとそれをDr.コパ氏は認めてくれたのだろうなあと勝手に想像し、フェブラリーステークスを迎えると、なんだかコパノキッキングの“がんばれ馬券”買いたくなってくる……かもしれない。

 

事実は小説よりも奇なり、とは言うが、小説で情を知ることも、事実をより楽しめるのではないだろうか。

 

おまけ:続編の『蒼のファンファーレ』には、なんとメディアで有名な風水師の馬主、という方が登場してくるので、時間のある方はこちらも注目です。

 

おまけのおまけ:フィッシュアイズの馬券はどこで買えますか?

 

 

あらすじ 

競馬学校で優秀な成績を修めていた新人女性騎手芦原瑞穂は、瀬戸内にある小さな地方競馬場に乞われて風変わりな厩舎に配属になる。しかし、その市営競馬場は赤字経営が続き、配属された緑川厩舎はやる気もなく、厩務員も馬も個性的過ぎ、初勝利は絶望的。新人女性騎手ということで、知らぬところでアイドル化され、横柄な馬主に嫌がらせをされる。

レース以外での苦労と苦悩の日々、そんな中でも懸命に勝利を模索する瑞穂は徐々に過去に向き合っていく緑川調教師の心を動かし、ボロボロになっている魚目の馬と出会い、一気に物語が加速していく。

 

『風の向こうへ駆け抜けろ』 古内一絵/小学館

www.shogakukan.co.jp

 

 

(みすてー)

競馬の楽しさを、すべての人へ。
ウマフリとは?
ウマフリ本誌はこちら。
ウマフリブログ
コラボ企画・ご寄稿も大歓迎!
お問い合わせ