【重賞回顧】第36回フェブラリーステークス(GⅠ)

今も問われる、ダート競馬の底力。見せねばならない、ダート界頂上の凄み

 

フェブラリーステークスのGⅠ昇格は1997(平成9)年。噛みつき癖をもつ個性派シンコウウインディと岡部幸雄騎手が初代ダートGⅠウイナーに輝いた。この年は地方競馬との交流元年。ダートグレードレースが創設、ダートを主戦場にしながら重賞タイトルを獲得する機会が飛躍的に増えた。

活躍する場が増えたものの、中央競馬ではダート競馬の地位は上昇したとはいえない。GⅠレースは年にたった2レース。いずれも厳冬期。JRAGⅠタイトルを獲得する機会に恵まれているとはいいがたい。真冬のダートGⅠは話題に欠ける年も多く、ゆえにJRAにおけるダート路線も向上していかない。この連鎖を断ち切る存在が、フェブラリーステークスでGⅠ初騎乗を果たした。コパノキッキングと藤田菜七子騎手。根岸ステークス後に藤田菜七子騎手騎乗が発表されると、フェブラリーステークスの景色が一変した。真冬に差し込む早春の陽ざしのような暖かさ。彼女ひとりにそれを背負わせるのは酷かもしれないが、藤田菜七子騎手には競馬の景色を変える力がある。

 

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藤田菜七子騎手が乗るコパノキッキングは根岸ステークスの勝ち馬。今回は距離延長、苦手な芝スタートと課題は多いものの、昨秋から根岸ステークスまで4連勝。ダート短距離界に現れた新星。

1番人気に支持されたのは同じ連勝中のインティ。コーナー4つの1700m以上のレースで6連勝、GⅡ東海ステークスを制覇した。東京未経験、コーナー2つの1600mという未知なるスピードコースで自慢のスピードを活かせるかどうかに注目が集まった。

ダート界の新顔に立ちはだかるは2番人気のゴールドドリーム。2017年覇者、2018年2着とこのコースでは崩れ知らず。距離が長かった東京大賞典ではオメガパフュームの2着。こちらはまだまだ古豪とは呼べないほど活力に満ちている。

ゴールドドリームを破ったオメガパフュームは注目の4歳ダート最上位クラスの1頭。ルヴァンスレーヴ不在のここは4歳代表格。

ダート路線ではもうお馴染みのサンライズ2騎がここも顔を揃えた。サンライズソアは暮れのチャンピオンズカップ3着、その前はJBCクラシック3着と中距離路線ではトップレベル。久々の東京ダート1600mに対応できれば、力は見劣らない。

一方のサンライズノヴァは逆にこの東京ダート1600mが得意舞台。昨年1年間は武蔵野Sを含め、3勝2着3回4着1回の成績。後方から展開とは逆の競馬でも好走できるのが強みだ。

昨年の勝ち馬ノンコノユメ、2016年勝ち馬モーニンとゴールドドリームを含め歴代勝ち馬3頭が出走。根岸ステークス2、3着のユラノト、クインズサターンなど伏兵まで油断できない砂の猛者たちが顔を揃えた。

 

全てはスタートが鍵を握っていた。東京ダート1600mの独自性を高める原因にスタートから芝を走るレイアウトがあげられる。インティは芝スタート未経験。コパノキッキングは芝スタートのレースでは後方に置かれる弱点を抱える。芝スタートの克服はポイントだった。

 

一斉のスタートのなか、ノンコノユメが出遅れ、コパノキッキングは五分のスタートから芝でダッシュを利かせられない。藤田菜七子騎手は芝スタートを克服させるというより、芝で置かれることを覚悟した上で騎乗していたようだ。一方、初めて芝スタートを経験するインティは武豊騎手のエスコートでそれなりにダッシュをきかせることが出来た。抜群のスタートを切ったサンライズソアが芝部分から控える素振りを見せたので、ハナに立つことに成功。インに入ってすぐ内にいたサクセスエナジーを牽制。松山騎手もインティと武豊騎手の先制攻撃に手綱を引くしかなかった。

 

このスタートから1ハロンがこのレースを決定づけた。他にペースを奪われなかったインティのひとり旅。ペースを落としても競りかける馬はいない。2番手サンライズソア、3番手サクセスエナジーは折り合いに専念。中団はひしめき合う馬群ができる。ワンダーリーデル、モーニンが4、5番手。直後のインにユラノト、間にゴールドドリーム、オメガパフュームは外でやや折り合いを欠く。後ろにはメイショウウタゲ、ノボバカラ、外にサンライズノヴァ、インにクインズサターン、その外を押しあげるノンコノユメ。内田博幸騎手のこのポジションではという危機感すら漂う。そして、ドン尻に置かれるコパノキッキング。藤田菜七子騎手の度胸が見え隠れする。

 

半マイル通過48秒0という稀にみるスローペース。レースを支配する武豊騎手はさながらダートの魔術師。後ろの13頭は術中にはまって抜け出せない。

 

戦前の不安をすべて解消したインティは気分上々。口笛でも吹いているかのような気持ちよさだ。

 

東京ダート1600mコースの独自性は長いホームストレッチにも起因する。ダート競馬ではしばしば見られるコーナーを外からマクリあげて内の馬にプレッシャーをかけ、押し込めるという戦法は取りにくい。4角で仕掛けても、残りは500mあり、それは早仕掛けを意味する。インティのようなキャリアの浅いダート馬にはマクリ戦法でプレッシャーをかける策は有効かもしれないが、東京ではご法度。後方の組がじわじわと先団との差を詰めてくるが、インティにはどこ吹く風だ。

 

直線を向くと、インティとサンライズソアとの間には絶望的ともいえる差がついた。直線入り口から武豊騎手がインティをトップスピードで走らせ、物理的な差を作ったのだ。サンライズソア以下、先行組には苦しい展開。唯一追ってくるのはゴールドドリーム。チャンピオンの底力でインティを追う。大胆に大外を回ったコパノキッキングも藤田菜七子騎手特有の柔らかい当たりに反応して伸びてくる。3番手にはこちらもチャンピオンホースのモーニン、インから武器である立ち回りをいかしたユラノトが迫る。

 

残り200m。坂を駆けあがったインティは自身の力を出し切ったかのように外に流れ気味に走る。それをステッキで矯正しながら武豊騎手がもたせている。一気に捕らえに出たゴールドドリームが唯一、絶望的な差を埋めてインティに迫る。

 

最後まで、あともう少し。武豊騎手の激励にインティも応える。追うゴールドドリーム、逃げるインティ。その差が並ぼうかという地点でレースはゴール板を迎えた。インティがチャンピオンの猛追をしのぎ、新チャンピオンの栄光をつかんだ。2着はゴールドドリーム、3着はモーニンを交わしたユラノト。コパノキッキングは猛然と差を詰めるも、その直後5着だった。時計は1分35秒6(良)。

 

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1~3着馬コメント

1着インティ(1番人気)

スタートでのサンライズソア、サクセスエナジーとの駆け引き、道中のリラックスさせる走り、直線では坂下で一気に突き放して、安全なリードを確保する。武豊騎手の恐ろしいまでの戦略性が目を引いた。どの局面でも理想的な対処をし、インティの力を発揮させた。最後の苦しがるインティを立て直すステッキワークまで、競馬の理想を描くような姿だった。当然、初めて経験する芝スタートも東京の長い直線も克服したインティの力も素晴らしい。九州で種牡馬生活を送る父ケイムホーム、個人で牧場を経営する生産者の山下恭彦氏にとって空からやってきた宝物のような存在になっただろう。夢のその先へ、インティと一緒に歩んでもらいたい。

 

2着ゴールドドリーム(2番人気)

東京大賞典で減らした体を戻し、ここに向けて陣営の仕上げの正確さが目についた。かつてのチャンピオンはまだ昔の存在では決してない。展開に泣き、決定的な差をつけられながらも最後までその差を詰めようとただ1頭伸びてきた。インティの脚があがっていただけにあともう少しゴールが1角に寄っていればと思いたくなるほどの強烈な伸び。やはり東京ダート1600mはもっともこの馬が力を発揮する舞台だ。

 

3着ユラノト(8番人気)

根岸ステークスと同じ内枠から全く同じような競馬をして最後に3着。この馬の最大の武器は器用な立ち回りとインでじっとしていられる忍耐強さだ。今日はその武器を最大限活用した結果。1、2着馬には決定的な差をつけられたものの、これから先もダート重賞戦線を賑わす存在になるだろう。

 

総評

武豊騎手、藤田菜七子騎手。注目のふたりは現状の力でベストを尽くした結果だった。大味な競馬だが、コパノキッキングをこの舞台で5着に導くには藤田菜七子騎手にとっての最善の策だった。武豊騎手の完璧なレースにある意味で逆らうような競馬は彼女の度胸すら感じた。

一方で他の騎手は年にたった2回しかない中央ダートGⅠで1番人気に楽な逃げを打たせるというのは本当にそれが最善だったのかと思わざるをえない。あっさり引いたサンライズソア、追いかけなかったサクセスエナジー。勝ちに行くというより安全な道を選んだ競馬がたった2回の中央ダートGⅠにおいて果たしてベストだったのだろうか。レースは半マイル48秒0-47秒6の超スローペース。それを先に先に仕掛けたインティに残り400mでセーフティリードを作られた。当然、苦しいレースに打ち勝ったインティの強さは認めつつも、これがダートの頂点を決する悔いなきレースだったといっていいのかどうか疑問が残った。芝のレースにはない、しのぎあい、削りあうような激しい攻防、力尽きた馬から脱落していくような厳しさがダート競馬の醍醐味である。ダート競馬を愛する者として、これだけは言っておきたい。

 

 

(勝木淳)

(写真・かぼす)

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