【重賞回顧】第93回中山記念(GⅡ)

並みいるGⅠ馬たち。立ちはだかる中山の鬼

 

中山競馬場といえば、有馬記念だろう。春の中山といえば、皐月賞だろう。

中山で行われる芝中長距離路線のGⅠはこのふたつしかない。そのうち皐月賞はクラシック第1戦だから出走機会は生涯1度しかない。残るは2500mの有馬記念。暮れに頭を悩ませるGⅠでもっともトリッキーなコースであり、中距離というより長距離カテゴリーだ。

 

中山はコーナーや坂、その独特な形状から速い上がりが計時されにくい、マニアな競馬場である。マニアゆえに中山巧者という馬が必ずいる。東京巧者とはちょっと違う。中山巧者は中山でしか走らない。そして、中山では力が出ないという中山不得手な馬も多い。

 

「中山2000mの古馬GⅠがあればなぁ」なんて嘆きたくなる馬はどの時代にも現れるもの。バランスオブゲーム、ローエングリン、サクラプレジデント。愛すべき中山巧者たち。

 

大阪杯がGⅠに昇格し、ドバイミーティングに日本から大挙参戦するようになり、中山記念のあり様も変化している。春に大きなところで戦う組が参戦し、伝統のGⅡは93回を迎え、グレード制導入以来はじめてGⅠ馬5頭が出走する豪華絢爛なレースとなった。

舞台は芝2500mに次ぐトリッキーコース芝1800m。高い中山攻略力が問われる。

 

出走するGⅠ馬5頭は内から2017年阪神ジュベナイルフィリーズを勝ったラッキーライラック、2017年秋華賞馬ディアドラ、2018年マイルチャンピオンシップを3歳で勝ったステルヴィオ、その同期の皐月賞馬エポカドーロ。そして、2018年大阪杯を勝ったスワーヴリチャードが出走。

 

GⅠ馬5頭に真っ向勝負を挑む筆頭はウインブライトだ。昨年の中山記念勝ちを含め、中山の1800~2000m重賞3勝、現役屈指の中山巧者だ。

 

先週の小倉大賞典ではまさかのドン尻で1角を回り、生涯初めて他馬を差したマルターズアポジーが連闘策で出走。週中にまたも大地を揺さぶられた北海道、その道営競馬からハッピーグリンが挑戦する。ジャパンカップ7着(2分22秒2)はここでも胸を張れる実績だ。

 

中山1800mは直線半ば、観衆の目の前からスタートする。スタンドの場内実況音声は馬が飛び出すまでオフにされるほどの至近距離だ。そこから1角までは短く、外枠から先行するには勢いをつけてコーナーに突入しなければいけない。

 

先行するには絶対有利な内枠を利したマルターズアポジーが今日はハナに立つ。武士沢友治騎手とマルターズアポジー、久々結成のこのコンビに迷いは一寸もない。

 

1角でマルターズアポジーを追い、2番手を確保したのがラッキーライラック。こちらも石橋脩騎手のケガがあり、コンビ結成は昨年の春以来久しぶりだ。かつてのラッキーライラックを思わせる強気な作戦で進める。

 

さらに離れた3番手がエポカドーロ。戸崎圭太騎手が昨年冬の小倉に遠征して以来、ずっと続くコンビだ。間隔を置いた4番手にウインブライト。松岡正海騎手は全17戦中16戦手綱をとり、この馬を知り尽くしている。バラバラの先行集団に続く中団の先頭には丸山元気騎手が初めて手綱をとるステルヴィオ、直後に3歳からずっとミルコ・デムーロ騎手が乗るスワーヴリチャードが続き、その後ろは昨年ドバイからコンビ継続中のディアドラとクリストフ・ルメール騎手、インにともにベテランのシベリアンスパーブと田中勝春騎手が続き、後方に初コンビのハッピーグリンとフィリップ・ミナリク騎手、マイネルサージュと津村明秀騎手、トルールマクトと大野拓弥騎手が追走している。

 

前半1000mは58秒2。ハイペースではなく、マイペース。これがマルターズアポジーの競馬だ。ペースを落とすところで落とさず、11秒後半ラップを刻み続ける。

3、4角ではマルターズアポジーを積極的に捕らえようと動いたのがラッキーライラック。この動きに呼応して、直後のエポカドーロとウインブライトも進出開始。レースが動き出した。ラチを頼るかのようにインを回るスワーヴリチャード。大外を追いあげるステルヴィオ。ディアドラが追撃に戸惑っている。

 

猛追する牡馬を尻目にラッキーライラックが直線入り口でマルターズアポジーを捕らえ、敢然と先頭へ立つ。それを追って2番手にあがったエポカドーロ。インのスワーヴリチャード、大外のステルヴィオ、これらとは明らかにコーナーでの加速力が違ったのがウインブライトだ。中山のキツいコーナーでのペースアップを全く苦にしない。馬場の真ん中から真っ直ぐ抜け出し、急坂にも全く怯まないウインブライト。坂で苦しくなったエポカドーロを捕らえ、ラッキーライラックに迫る。坂をあがってからエンジン全開のステルヴィオがウインブライトを追う。ウインブライトがゴールへ逃げ込むラッキーライラックをきっちり捕らえた地点がゴール板。中山攻略もここまで来れば、ゴールの場所すら計算済みかのようだ。粘るラッキーライラックが2着、追撃のステルヴィオは3着だった。時計は1分45秒5(良)。

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1~3着馬コメント

1着ウインブライト(5番人気)

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これで中山重賞4勝目。スタートで置かれず、中団前ぐらいからコーナーでペースアップ、直線入り口で前を射程距離に捕らえ、急坂をあがってひと伸び。まさに中山中距離戦の理想型のような競馬ができる。マルターズアポジーが平均やや速めのペースを作り、ラッキーライラックが積極的にペースアップを促す競馬は、すべてウインブライトに味方した。中山ではこうして流れまで引き寄せられる力をもっているのだろうか。松岡騎手は中山記念に間に合わせるためにケガから復帰、見事に連覇した。中山1800、2000mでGⅠがあればと思わずにはいられない。中山記念への意気込みが他とはちがった。

 

2着ラッキーライラック(6番人気)

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昨年のクラシックは期待されながら無冠に終わり、秋は順調さまで欠いてしまったが、今日は本来の積極策が光った。特に後続の追いあげを一切恐れずに4角手前でマルターズアポジーを捕らえに行く姿勢は素晴らしかった。ラッキーライラックがギアをあげた場面は12秒1とマルターズアポジーがペースを落とした地点。このタイミングのよさは石橋脩騎手の戦略力がなせる技でもあった。

 

3着ステルヴィオ(2番人気)

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大阪杯とのセットで依頼を受けた丸山元気騎手にとって騎手人生のターニングポイントとも言われていた。マイルがベストのステルヴィオをどうコントロールするのか。その課題に対しては答えは出せた。ただ、本来は中山向きではないようで、勝負どころを大外からあがっていくところでの加速が物足りなかった。ウインブライトとの差はコーナーの攻略力にあった。それでも坂をあがってからは再び伸びており、不器用ながらポテンシャルは発揮できた。

 

総評

ウインブライトの父ステイゴールドがこれで産駒通算重賞100勝目を記録した。これはヒンドスタン、サンデーサイレンス、ディープインパクト、キングカメハメハについで5頭目の快挙だ。加えていえば、ステイゴールド以外はみんなリーディングサイヤーばかり。ステイゴールドは決してリーディングサイヤーではない。社台スタリオンで種牡馬入り後、ブリーダーズスタリオンステーションとビッグレッドファームに移動したように輝かしい実績をあげたとはいえない。ただ、このレース2着ラッキーライラックの父オルフェーヴルや今年の新種牡馬ゴールドシップのように時より一発大物を出す血統でもある。現役時代の大半は勝負弱さからファンを釘づけにしたステイゴールドだが、競走生活終盤がそうであったように、信じられない勝負強さを奥底に隠し持った馬でもあった。秘める力を突然発揮する意外性こそがステイゴールド。だからリーディングサイヤーではないのに通算重賞100勝を達成した。彼らしい勝負強さを表した記録だ。

 

 

(勝木淳)

(写真・かぼす)

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