【重賞回顧】第56回弥生賞(GⅡ)

開けるクラシックロード、険しく厳しい、皐月への道

 

トライアルが始まる3月1週目。

春を意識せざるを得ない競馬番組が並ぶものの、まだまだ春には気が早く、冬は終わってないことを思い知らされる天候が多い。弥生賞の日は厳しい寒さに見舞われる印象がある。それにしても、この日は殊更厳しかった。春に思いを馳せる若駒たちに突きつけられた試練の雨。予報より早く朝から間断なく降り続く雨は馬場を濡らし、凍てつく空気を作り出した。

 

天候発表が雨、馬場状態が重という舞台設定は2010年ヴィクトワールピサが勝った年以来になる。1番枠から最後までインにこだわったヴィクトワールピサ、先行した3番枠エイシンアポロン、ヴィクトワールピサのあとを追った2番枠ダイワファルコン、インを立ち回った組が皐月賞への優先出走権を獲得した。

 

札幌2歳S、東京スポーツ杯と重賞2勝のニシノデイジーがスムーズさを欠いたホープフルS3着以来の出走。ホープフルSでは1番枠から勝負どころで置かれた同馬にとって、今回の2番枠は皐月賞に向けての課題となる。

 

続く人気は同舞台の京成杯勝ち馬のラストドラフト。京成杯では先行から4角先頭という強気な競馬で押し切った。こちらもインの1番枠、加えてクリストフ・ルメール騎手の落馬負傷により急遽の乗り替わり、田辺裕信騎手さあ内枠からどう乗るか。

 

3番手評価はダービー馬ワグネリアンの全弟カントル。500万条件のセントポーリア賞は抜け出して気を抜く若さを見せながら快勝。ミルコ・デムーロ騎手を配し、前走と同じ3番枠に入る。

 

以下、ホープフルSでスムーズさを欠き、5着だったブレイキングドーン(8番枠)、2400mの梅花賞を勝ったサトノラディウス(4番枠)、新馬勝ち以来のシュヴァルツリーゼ(5番枠)など、内枠に人気馬が集中、それが運命を左右した。

 

春とは思えぬ暗い正面スタンド前。

今年は6週間後の皐月賞をどんな空のもとで迎えるのだろうか。今日のような空でないことを願いつつ、レースは始まる。

 

スタートを決めたのは上位人気の内枠3頭。ラストドラフト、ニシノデイジー、カントルだった。サトノラディウスが外にヨレ、シュヴァルツリーゼはそのあおりも受け、後方に下がる。ラバストーン(7番枠)、メイショウテンゲン(10番枠)も出遅れ気味なスタートで前にはつけられない。

 

内枠からスタートを決めていれば自然と前の位置がとれる。このコースは1角までの先行争いが厳しく、本番の皐月賞も1角の入りをいかにスムーズにクリアできるかが明暗を分ける。スタートを決めた内枠3頭のうち、明確に先行の意志を示したのはラストドラフトの田辺裕信騎手だけだった。手綱を緩く押しながら馬を促す。ニシノデイジーとカントルはどちらもスタート直後から手綱を絞り、懸命に好スタートを打ち消すように抑えにかかった。まずは折り合い。どちらもその1点に絞った。

 

ラストドラフトがハナに立ち、抑える内枠の馬を尻目に外からヴァンケドミンゴ(6番枠)が2番手目がけてあがり、インを気にしながらも切れ込む。3番手は抑えきれない勢いでカントル。外のヴァンケドミンゴにやや蓋をされながらインに収まる。折り合いを考えれば、インでリラックスさせたい。

 

やや離れて、インにニシノデイジー。こちらも勝浦正樹騎手の手綱は緊張感が伝わるほど張りつめている。その外に並ぶのは、札幌2歳Sでニシノデイジーに屈したナイママ(9番枠)。川崎から中央クラシックを目指す同馬がニシノデイジーを内に押し込めるような態勢をとる。ニシノデイジーは勝浦騎手の指示もあり、ナイママより位置を下げる。

 

さらに後ろのインに収まったのはサトノラディウス。こちらは武豊騎手にやや促されながら走る。その外のメイショウテンゲンはサトノラディウスから馬体を離し、池添謙一騎手が意図的に外を走らせているようだ。

 

ここまでが集団となり、残りはバラけて、控えたブレイキングドーン、シュヴァルツリーゼ、さらに離れた位置にラバストーンが追走。

 

ラストドラフトが作ったペースは前半1000m61秒8、重い芝状態を考慮すれば、遅くない流れだ。1角手前から11秒7-12秒5-12秒5-12秒4と向正面終わりまでペースダウンさせて息を入れるような素振りはない。例年以上に重い馬場で厳しいペースだった。

 

外の2番手外ヴァンケドミンゴ、後ろからナイママらが押しあげる形になり、ラストドラフトはさらにペースをあげて、3角に突入。インに控えたカントル、ニシノデイジーも追走するが、外からメイショウテンゲンが来て、スパートの態勢が遅れる。サトノラディウスは早くも脱落、ブレイキングドーン、シュヴァルツリーゼが外から動き出す。

 

そして勝負の4角。ラストドラフトが内2頭ほど空けたことで、カントルとニシノデイジーがコーナーワークで外のラストドラフト、ナイママ、メイショウテンゲンに並ぶ。この動きからさらに外になったブレイキングドーン、さらに外のシュヴァルツリーゼは7頭分外を不器用そうなコーナーワークで追う。

 

そして、直線。

インからカントル、ニシノデイジー、ラストドラフトの人気勢が叩き合うも、その外から並ぶメイショウテンゲンの脚色が明らかに人気勢を上回る。カントルとニシノデイジーが叩き合いながら応戦するが、思うように伸びない。先頭に立ったメイショウテンゲンを目がけてブレイキングドーン、シュヴァルツリーゼが伸びる。なかでもシュヴァルツリーゼの脚色がかなりよく、先頭のメイショウテンゲンを猛追する。しかし、完全に抜け出したメイショウテンゲンがシュヴァルツリーゼに追撃する余地を与えない。インのカントル、ニシノデイジーの叩き合いをまとめて交わしたブレイキングドーンが最後に3着にあがった。時計は2分03秒3(重)。

 

1~3着馬コメント

1着メイショウテンゲン(8番人気)

不利とみられた外枠がこの雨で馬場が渋り、一変した。池添謙一騎手が徹底して外にメイショウテンゲンをエスコート。大きな距離ロスがあったが、インの悪いところを走った有力勢に対して、強気に外から動いて、押し込めるようなシーンもあり、攻撃的な騎乗も見逃せない。母は牡馬相手に中距離戦線で活躍したメイショウベルーガ。管理調教師はベルーガと同じ池添兼雄と、ロマンあふれる組み合わせ。厳しいレースになったことで、息子のテンゲンの底力が目を覚ました。

 

2着シュヴァルツリーゼ(6番人気)

キャリア1戦らしく荒削りなレースながら2着。スタートではサトノラディウスにカットされ、後方追走、3、4角はブレイキングドーンの外を走り、勝負どころでは7頭分外を曲がりきれないような走りで回ってきた。その態勢でも直線で伸びたのは厳しいペースと結果的に馬場がいいところを走った結果だが、腹を括って後方から終いだけの競馬にかけた石橋脩騎手の判断も見逃せない。よって権利を獲得できたといってもいい。

 

3着ブレイキングドーン(4番人気)

こちらもやはり後方から外を回ってきた組。馬場に救われた格好ながら、本来ならこのぐらいの力を発揮していい馬。父は重の弥生賞を勝ったヴィクトワールピサ、それを考えると、この舞台設定はもっとも力を発揮できる条件だった。

 

総評

2010年同じような条件で行われた弥生賞はヴィクトワールピサをはじめ、内枠の3頭で決まる、イン有利な馬場だった。内枠に入った人気馬に有利と目されたレースも終わってみれば、外を走りぬけた伏兵陣が3着までを独占した。ラストドラフトは自ら厳しいペースを作り、ニシノデイジー、カントルは折り合いを重視するためインにこだわった。折り合いはクラシックを戦う上で重要な要素。結果的にこの折り合いへの意識が攻め手を失った。先行勢に厳しいペース、ラストドラフトの動きに合わせて、すくったインはゴールまでの最短距離になるはずが、ゴールを遠のかせた。難しい馬場状態に厳しいペース、この馬場で残り800mを12秒2-12秒1-12秒3-12秒6、実質は良馬場の11秒台に相当する厳しさだった。弥生賞は例年以上の試練だった。

メイショウテンゲンの母、メイショウベルーガはその名を表す白さがシンボル。日経新春杯、京都大賞典を勝った男勝りは2011年の天皇賞(秋)で靭帯を痛めて競走を中止し、ターフを去った。あのとき、池添謙一騎手が異常を察知して馬をすぐに止めるという判断をしなければ、テンゲンがこの世に生を受けることはなかった。池添騎手が救った命がプレゼントした重賞勝利。競馬は因果応報。運命はいつも巡ってくる。

 

 

(勝木淳)

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