【重賞回顧】第49回高松宮記念(GⅠ)

競馬はいつも巡る。時を進め、ときに時を戻す

 

2000年3月26日高松宮記念。

緑のメンコにシャドーロール、頭が高く、いかにも不器用そうな首の動き。中京競馬場の大外を必死に伸びるその姿は、かつて世界的超良血としてデビューしたエリート然とした雰囲気とは違う、懸命にもがき、生きてきた男のものだった。

2019年3月19日。キングヘイローは老衰のため静かに息を引きとった。かつて、坂口正大調教師が中京競馬場の検量室前で人目もはばからず涙した姿が思い出される。

それから、19年。この間、キングヘイローの子どもローレルゲレイロがこの高松宮記念を勝ったのは父の勝利から9年後、今から10年前の2009年のことだった。

 

2019年3月24日、今年も3、4角は見事な大寒桜に彩られ、高松宮記念を迎えた。

 

主役はこのレースを勝った世界的スプリンター・ロードカナロアを父に持つダノンスマッシュ。スプリント路線転向で能力を開花させ、重賞連勝で高松宮記念に駒を進めた。

対抗格モズスーパーフレアは前哨戦オーシャンステークスを前半3ハロン32秒3の猛スピードで押し切った快速牝馬。鞍上は今月50歳になった競馬界のレジェンド武豊。逃げれば後続に金縛りをかける魔術と快速牝馬の組み合わせはベストマッチ。

3番手以降はやや混戦模様。阪急杯1番人気7着のミスターメロディ、同レース3着だったロジクライ、高松宮記念2年連続2着のレッツゴードンキ、昨年3着のナックビーナス、中京巧者のアレスバローズ、京都牝馬ステークスを+32キロで勝ったデアレガーロ、キングヘイローの子どもダイメイプリンセスなど多士済々な顔ぶれだ。

 

戦前はモズスーパーフレアが前半3ハロンをどのくらいで逃げるのかに注目が集まっていた。逃げるのはモズスーパーフレアだという決めつけに近い視点はスタートで完膚なきまでに崩される。

好発を決めたのは一昨年の勝ち馬セイウンコウセイ。内枠を利して一気にインからハナに立つ。同じくスタートを決めたラブカンプー、ナックビーナスが2、3番手を取りに行くが、遅れて外からモズスーパーフレアが追いあげにかかる。出遅れたわけではないが、セイウンコウセイのロケットスタートを前に遅れをとってしまったのだ。

内からラインスピリット、アレスバローズ、ミスターメロディも遅れかけながら先団にとりつく。その外、早めにモズスーパーフレアを目標にダノンスマッシュも先行していく。

先制攻撃に成功したセイウンコウセイをラブカンプーとモズスーパーフレアが交わす。セイウンコウセイは抑えても競馬ができるという強みからあっさりとハナを明け渡す。もっとも速いラップが出る2ハロン目は10秒1。ここでスピードをあげてモズスーパーフレアが強引にハナに立った。その外にラブカンプー、3番手のインに収まったセイウンコウセイ、外に並ぶダノンスマッシュ、直後はナックビーナス、そのインにミスターメロディがいる。その後ろにペイシャフェリシタ、アレスバローズ、ティーハーフ。中団はラインスピリット、ロジクライ、ダイメイフジ、インからショウナンアンセム、外にデアレガーロ、さらに後方にレッツゴードンキ、ヒルノデイバロー、ダイメイプリンセス、白く輝くスノードラゴンがドン尻に下がる。

前半3ハロン33秒2はGⅠにしては平均的な流れだが、モズスーパーフレアが途中からハナに立ったこともあり、予想よりペースは上がらない。彼女としては遅いぐらいのペースだ。

コーナーでダノンスマッシュが外から強気に攻めあがり、モズスーパーフレアに並びかけながら直線に向く。モズスーパーフレアの直後インから再び加速してくるセイウンコウセイが外に出し、2強の間を割ってくる。モズスーパーフレアは坂下で手応えが怪しくなる。その様子をみたダノンスマッシュはやや追い出しを待つような仕草。セイウンコウセイの動きでモズスーパーフレアとの間にできたスペースに潜り込んだのはミスターメロディ。セイウンコウセイに並び、叩き合う。仕掛けを遅らせたダノンスマッシュが経済コースを抜けた2頭に追いすがる。ミスターメロディの直後から伸びてくるのは同じく最短距離を進んだショウナンアンセムだ。

 

外から追いあげる組は伸びを欠き、ダノンスマッシュですら内の3頭との差を縮められない。セイウンコウセイを競り落とし、ショウナンアンセムの追撃を退けたミスターメロディが最後まで力強く走り切り、先頭でゴールに飛び込んだ。2着はショウナンアンセムを退けたセイウンコウセイ、ショウナンアンセムが3着、ダノンスマッシュは4着に敗れた。勝ち時計は1分7秒3(良)。

 

1~3着馬コメント            

1着ミスターメロディ(3番人気)

前哨戦の阪急杯は終始外を回りながら、直線もスムーズさを欠いた競馬で敗退。今回は一転して枠順を活かすインを攻める競馬が光る。スプリント戦初出走らしく、スタート直後の先行争いで引くようなところがあったが、福永祐一騎手がそこを踏みとどまらせ、流れに乗せたからこそ、直線でセイウンコウセイが作ったスペースに真っ先に入ることができた。東京ダート1300mでデビュー、そのレースでスピードの違いを見せた快速型。1200m戦でそのスピードを発揮した。セイウンコウセイを競り落とし、ショウナンアンセムの追撃を許さない、抜け出してからの走りに強さがみえた。

 

2着セイウンコウセイ(12番人気)

一昨年のこのレースを勝ったときは、重めの馬場だったこともあってか、その後は続けて走ることができず、低評価。それを覆す結果は、やはりスタートが大きい。外の速い馬よりさらにいいスタートを切る、この先制攻撃が最後まで影響した格好だ。一旦はハナに行きながら、外の動きに合わせて引き、十分に息を整えて再加速する、ベテランらしい味なレース運びだった。

 

3着ショウナンアンセム(17番人気)

18頭立て17番人気3着は立派のひとこと。こちらもレースは終始インを進み、セイウンコウセイやミスターメロディが走ったあとを同じように追いあげて抜け出してきた。使った脚は次位の33秒4。極端に速くならない流れとインでロスしなかった立ち回りが大きかった。

 

総評

キングヘイローの主戦といえば、福永祐一騎手だった。ダービーでまさかの逃げ戦法。ハイペースを誘発、大敗は本人にとっても苦い思い出だろう。その後、再び鞍上に戻ることはあったが、あの2000年高松宮記念は柴田善臣騎手の手綱によるものだった。そして、このレース2着になったのがキングヘイローの主戦だった福永祐一騎手が乗るディヴァインライト。さらに今年勝ったのはミスターメロディと福永祐一騎手。ここに運命めいたものを感じたものだが、あの2000年高松宮記念をキングヘイローを偲ぶ意味でももう一度見直してみて欲しい。

ミスターメロディに高松宮記念をプレゼントした福永祐一騎手のレースはあの時のディヴァインライトのレースと瓜二つだった。終始好位のインでじっとし、直線で空いたスペースにさっと潜り込む。キングヘイローが勝った高松宮記念、その影には負けたディヴァインライトがいる。そして、そのディヴァインライトのレースをしてミスターメロディを勝利に導く。

競馬はいつも巡る。時を進め、ときに時を戻す。

キングヘイローを思い出せば、ディヴァインライトも浮かびあがる。そしてそれがミスターメロディに重なる。

世界的な良血を両親に持ちながら、不器用に懸命に砂をかぶり、泥にまみれてたったひとつの勲章をもぎとったキングヘイローは、私が忘れられない馬の一頭だった。

いつものあの、ぶきっちょな走りで彼は天へ駆けて行っただろう。

どうぞ安らかに。

 

 

(勝木淳)

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