【重賞回顧】第24回NHKマイルカップ(GⅠ)

3歳マイル頂上決戦。しのぎを削る熱き直線の攻防

 

NHKマイルカップデイの早朝、遥か太平洋の向こう、アメリカ合衆国ケンタッキー州ルイビルにあるチャーチルダウンズ競馬場でも音楽が競馬を盛りあげた。馬場入場を知らせるトランペットによる独奏「Call to Post」、そして「My Old Kentucky Home」の演奏と合唱がケンタッキーダービーを演出する。

 

音楽が競馬を演出する場面は海外ではケンタッキーダービー以外にあまり見られないが、日本ではなぜか音楽が競馬の盛りあげ役に多用されている。日本の競馬に馬場入場曲と発走ファンファーレは欠かせない。その起源は日本短波放送(現ラジオNIKKEI)がレース発走のタイミングを視聴者に伝える意味でファンファーレを流したことに求められる。競馬会がこの演出を採用、「カルメン組曲」を流したこともあったようだ。

 

競馬進行において合図替わりに使われる音楽だが、ときに繊細すぎるサラブレットにとって妨げになるという指摘もある。ライブ会場さながらに手拍子や掛け声で自分たちを高揚させる行為は合図としての音楽という役割を逸脱しているともいえよう。

 

1年に1度だけ、手拍子も掛け声も受けつけない美しく優雅なファンファーレが響くときがある。それがNHKマイルカップを告げるN響(NHK交響楽団)金管アンサンブルが奏でるGⅠファンファーレだ。ゆったりとしたピッチ、伸びやかなハーモニーで東京競馬場を瞬時にサントリーホールに変えてしまう。「オイオイ」という謎の掛け声も封じるN響の演奏は年に一度の楽しみでもある。

 

優雅な音色に見送られ、東京競馬場の向正面1600m標識から飛び出す18頭。スタートを決めたのはステップレースのニュージーランドトロフィーを逃げ切ったワイドファラオ。それを交わして先頭を争う内枠勢、フィリーズレビューを勝ち、桜花賞から転戦してきたプールヴィル、皐月賞大敗からマイル路線に矛先を変えたクリノガウディー、それらを交わしてハナに立ったのがアーリントンカップを逃げ切ったイベリスだ。

 

これらの直後に控えるのは、断然の1番人気に支持される桜花賞馬グランアレグリア。C.ルメール騎手が懸命になだめながら走らせている。その後ろにいるのが、きさらぎ賞を勝ち、皐月賞をパスしたダノンチェイサー、その外にアーリントンカップ3着トオヤリトセイトがあがり、中団の前にファルコンステークス2着グルーヴィット、シンザン記念勝ち馬ヴァルディゼール、その外、壁がないまま並びかけるのは2歳チャンピオンのアドマイヤマーズだ。馬群に入るマイネルフラップ、アーリントンカップ2着カテドラル、折り合いを欠くファンタジストがあがり、中団後ろにはニュージーランドトロフィー3着ヴィッテルスバッハ、新潟2歳ステークス勝ちケイデンスコールが続く。

 

前半800mは45秒8。N響の優雅な音色とは対照的な11秒台のラップが刻まれる厳しい流れ。置かれた後方集団にはロードグラディオ、ハッピーアワー、ミッキーブラックがいる。

イベリスが先頭、クリノガウディー、プールヴィルが2、3番手に続く先行集団はバラバラだが、その後ろは徐々に大集団になっていく。後方の馬たちが早めに差を詰めてグランアレグリアに迫る。

最後の直線、先頭のイベリスを巡り、先行2頭と直後にいたワイドファラオ、トオヤリトセイトが追う。この直後にいたグランアレグリアは進路がない。外にいるダノンチェイサーとアドマイヤマーズは進路十分だ。そのとき、グランアレグリアが馬自身が外に逃げるような動きを見せ、ダノンチェイサーと接触した。

残り400mから続く坂に阻まれた形になったイベリスは後退、クリノガウディーがイベリスを捕らえるが、こちらも脚色に余裕はない。この厳しい局面を打破したのは2歳チャンピオンのアドマイヤマーズだった。外を明らかに他馬とは異なる脚色で駆け抜け、一気に先頭に立つ。ダノンチェイサーやグランアレグリアが追うも脚色では及ばなかった。

かわって大外から末脚全開で追い込んだケイデンスコールとごったがえす馬群をこじ開けたカテドラルがアドマイヤマーズに迫るも、この2頭を振り切ったアドマイヤマーズが見事に先頭でゴールを駆け抜けた。2着争いは外のケイデンスコールに凱歌、3着はカテドラルだった。勝ち時計1分32秒4(良)。

 

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1~3着馬コメント 

1着アドマイヤマーズ(2番人気)

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朝日杯FSでグランアレグリアを完封、年明けの共同通信杯では逃げて2着、皐月賞では距離不安を指摘され、M.デムーロ騎手自身も半信半疑だったようでやや消極的な競馬で4着。しかし、この一連の競馬を経験したことで、今回は中団やや前、壁がない外をギリギリ我慢、直線は大外を力強く抜け出せた。2歳時よりも溜めることができたのは長い距離を使った成果だろう。対グランアレグリアはマイル戦で2戦2勝。終わってみれば、年明けの段階でのマイルならこの馬が強いという見立て通りの結果だった。

 

2着ケイデンスコール(14番人気)

2歳時に新潟2歳ステークスを制した実力馬だが、朝日杯FS14着と毎日杯4着で早くも見限られてしまった印象。思えば、左回りの直線が長い競馬場での競馬は新潟2歳ステークス以来で、適条件に戻って実力を出し切ったともいえる。前半で無理をさせず、馬の気に任せつつ、直線では大外に持ち出すという、石橋脩騎手の肝が座った騎乗も光った。

 

3着カテドラル(7番人気)

インからずらっと並ぶ馬の壁をこじ開けて伸びてきた。抜け出すタイミングがもう少し早ければ、アドマイヤマーズにもう少し抵抗できたのではと思わせただけに、惜しい競馬。しかしながら、こうしたこじ開ける競馬こそオーストラリアで乗るB.アヴドゥラ騎手の真骨頂。ロスを最小限に押さえ、進路を自ら作る競馬があったからこその3着でもあった。アーリントンカップ、今回と決して能力全開ではないだけに今後も期待したい。

 

総評

4位入線のグランアレグリアは5位入線ダノンチェイサーとの着差(クビ差)を走行妨害がなければひっくり返された可能性があると判断され、降着となった。パトロールを確認すると、接触によってダノンチェイサーのバランスは一瞬崩れた。この一瞬が命取りとの評価は仕方ない。問題は、この事象はどうして発生したのだろうか。グランアレグリアの動きは前が壁になりかけたところでのことだったから、C.ルメール騎手が故意に進路を作るために外に動いたともとれる。だが、グランアレグリアは朝日杯FS、桜花賞ともに直線に入ると、ルメール騎手の制御を無視するかのように内ラチに寄って行くような挙動が見られた。派手に引っ掛かったサウジアラビアRCもそうだが、どこか危ういところがある馬だった。左回りの東京でも右に動いた。跳ねるようにヨレる突発的な動きは前2走で見せたものと同じもので、もっともタイミング悪い場面で癖を出したようにも思える。

当然、この癖はルメール騎手もつかんでいたはずなので、制御しきれなかったことは残念だ。こうした判断しにくい事象については、当たり前だが憶測が生まれる。また、2013年から審議の基準が変わり、故意か否かより、その行為が結果(着差)にどの程度影響を及ぼすかどうかが重視されるようになった。ここぞという場面でペナルティ覚悟でラフな騎乗をすることがあるだろうという推測が的を得ているかどうかは私には判断できないが、そうした推測を呼ぶようなルールであることは事実だ。

ケンタッキーダービーの降着劇は着差に関係なく、コーナーで外に膨れるべからずという米国競馬の不文律を根拠に決定された。

スポーツにおけるルールにパーフェクトなものはないからこそ、ルールは改められるのが常である。JRAの審議に対するルールも常に見直しはされるべきだろう。

 

 

(勝木淳)

(写真・かぼす)

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