【重賞回顧】第80回優駿牝馬(GⅠ)

兄との日々、苦悩、奮闘、無念、歓喜、すべてをこの日のために

 

舞台は中世ドイツ。

騎士ルドルフは恋人ベルタのためにドナウ川の岸辺に咲く花を摘もうとしたところ、足を滑らせて川へ転落、その流れに飲み込まれてしまう。ルドルフは最後の力をふり絞ってその花を岸辺に向かって投げ、「ボクを忘れないで」という言葉を遺して亡くなってしまう。ベルタはルドルフの墓にその花を供え、彼の最後の言葉をその花に名づけた。

それが忘れな草花言葉は真実の愛。

 

2019年の忘れな草賞を勝ち、第80回優駿牝馬オークス)1番人気に支持された馬がラヴズオンリーユー。忘れな草に秘められた伝説を思わせる馬名を持ち、忘れな草賞を勝つ運命にすらあったかに思わせる彼女はオークスの直線で躍動した。最後の坂を駆け、苦しがるライバルを交わし、追いすがるライバルを寄せつけず、先に先頭に立ったカレンブーケドールに迫る。彼女の真実の愛、忘れな草は兄と矢作芳人調教師の出会いにあった。

母ラヴズオンリーミーの3番目の仔、リアルスティール矢作芳人厩舎からデビュー。共同通信杯を勝ち、皐月賞2着、日本ダービー4着、菊花賞2着とクラシックに届きそうで届かなかった。古馬になり、ドバイターフを勝ってGⅠ制覇を達成したものの、国内GⅠは天皇賞(秋)2着、リアルスティールに国内GⅠタイトルをという矢作の執念に近い願いは成就しなかった。

ラヴズオンリーユーは兄リアルスティール矢作芳人調教師、兄に騎乗経験があるミルコ・デムーロ騎手の気持ちを乗せ、カレンブーケドールを捕らえ、ゴール板を通過していった。

 

第80回優駿牝馬オークス)は武藤雅騎手とジョディーのロケットスタートで幕を開けた。フローラSクイーンCで健闘した彼女の持ち味は逃げ戦法。迷うことは一切ない。フラワーCでジョディーを制して逃げたコントラチェックは距離2400mを意識してか早々に控える競馬を選択し、1角で2番手をキープする。3番手に桜花賞では後方を進んだエールヴォアがつけ、その内に桜花賞3着クロノジェネシスが続く。4番手外にカレンブーケドール、ラヴズオンリーユーは中団馬群の真ん中。ミルコ・デムーロ騎手は無理に抑え込まず、機嫌を損ねないように向正面でポジションを前後させる。あくまで馬のリズムを優先させる作戦だ。

その近くには桜花賞1番人気ダノンファンタジーフローラS2着シャドウディーヴァ、桜花賞2着シゲルピンクダイヤら有力馬が多数。後方馬群の前にフローラS勝ち馬ウィクトーリアがいる。

ジョディーが作ったペースは前半1000m通過59秒1のミドルペース。スローペースになりやすいオークスにしては強気な流れは若き武藤騎手とジョディーにとってのマイペース。大舞台にも気圧されることはない。

3、4角中間地点でエールヴォアがポジションをあげ、外からマイペースのジョディーやコントラチェックにプレッシャーをかける。被されまいと応戦するコントラチェックもペースをあげ、ジョディーの手応えが苦しくなっていく。ラヴズオンリーユーはプールヴィルとフェアリーポルカの間に入り、じっくりと進む。

直線に入り、エールヴォアを振り切って一旦先頭に立ったコントラチェックを外から飲み込むのはカレンブーケドールだ。

残り400m、未知なる領域に入る。カレンブーケドールを追うシャドウディーヴァとダノンファンタジー。インから抜け出すクロノジェネシス。だが、3頭ともにカレンブーケドールに迫ることができない。ダノンファンタジーは苦しそうに内に刺さる仕草さえ見せる。

その後方の外から一気に迫ってきたのが併走するプールヴィルを置き去りにしたラヴズオンリーユー。デムーロ騎手が道中のコンタクトを大事にした成果だ。その末脚は他馬とは明らかに次元が違った。必死に食い下がるカレンブーケドールだったが、ラヴズオンリーユーの勢いは止まらず、見事に樫の女王に輝いた。2着はカレンブーケドール、3着争いは最後にクロノジェネシスが再び迫ったダノンファタジー、インから追い込んだウィクトーリアを制した。

勝ち時計2分22秒8(良)はオークスレコードだった。

 

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1~3着馬コメント

1着ラヴズオンリーユー(1番人気)

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キャリア4戦無敗は2006年カワカミプリンセス以来の快挙。フレグモーネで一頓挫あったが、結果的にマイルの桜花賞に向かわず、中距離でキャリアを重ねた経験が花開いた。道中の折り合いもつき、デムーロ騎手が馬の機嫌を損ねないようストレスをかけない位置取りに終始したことが最後の爆発力につながった。こうしたレース運びは闘志に火がつきやすかった兄リアルスティールでの経験があってのものだろう。

 

2着カレンブーケドール(12番人気)

4番手の外を追走。ジョディー、コントラチェック、エールヴォアを一気に交わして先頭に立った残り400m地点では勝負あったと思わせるほどの突き抜けだった。早めに動く強気な競馬で馬の能力以上の走りを引き出した津村明秀騎手のファンプレー。残り200mで先頭だっただけにここまで来れば勝ちたかった、本音はそれに尽きるだろうが、世代トップ争いに食い込む走り、秋は主役級になる。

 

3着クロノジェネシス(2番人気)

馬番通り、道中は終始インコース。馬群でじっと折り合いをつけながら進む。一旦狭くなったところをこじ開け、激戦の3着争いを最後に一歩前に出て凌いだ。ダノンファンタジー、シャドウディーヴァ、ウィクトーリアらとの叩き合いで見せた勝負根性はここまでクラシック路線の先頭を走り続けたこの馬の真骨頂だ。こちらも内回り2000mならと思わせる競馬をしており、秋に期待させる。

 

総評

12番人気2着、大健闘のカレンブーケドールに勝負の厳しさが見えた。津村明秀騎手の改心の騎乗もあり、先頭に立った地点では大金星を予感させた。平均ラップの流れを前から攻め、直線も早めに抜け出したレースはその実力を見誤っていたことを反省しなければならない。見事な奇襲も最後の最後でラヴズオンリーユーの前に散った。勝ちに等しい競馬も、負ければ歴史に名を刻めない。競馬の厳しさが痛い。

「みんなへの愛を込めて」という馬名由来のラヴズオンリーユーはDMMドリームクラブの所有馬。競馬界に新たな風を吹き込んだバヌーシーの2世代目からクラシックホースが出た。少額投資、1頭1万口という常識を崩すようなシステム、セレクトセールでの高額馬購入と話題多きバヌーシーがこうして結果を出したことは新たな馬主の形を定着させていく過程において、大きな意義を持つ。2、3万円でクラシックホースのオーナーになれる、実利より夢とロマン、気分を味わうコンセプトはさらにライトユーザーを取り込み、新たなに競馬の世界に足を踏み入れる人々の入り口となるであろう。

 

 

(勝木淳)

(写真・かぼす)

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