【重賞回顧】第86回東京優駿(GⅠ)

全身全霊。すべてのホースマンのために送るクラシック物語


1/7071頭を決めるときがやってきた。

2019(令和元)年5月26日、東京優駿日本ダービー
 
その舞台、用意されたゲートは僅か18。クラシックは厳しい勝ち抜け戦でありながら、負ければ終わりではない。単純なまでのトーナメント戦ではなく、勝ち抜け戦ではあるが、ずっと敗者復活の機会が与えられ続ける。新馬を負ければ、未勝利へ。重賞で力を出し切れなければ、500万下平場や特別戦へ、芝からダートへ、中距離から短距離へ。負ければ状況は厳しくなるが、道が閉ざされるわけではない。そして、道を違えながらも、みんな頭のどこかに日本ダービーが必ずある。

 

日本ダービーは2歳6月から始まる1年間のシリーズ最終決戦。私たち競馬ファンにとっては1年の終わりだが、サラブレットの世界においては表面に見えるたった1年でしかない。繁殖牝馬を管理、配合相手を選び、種付けをし、命を宿せれば、そこから約1年。母馬が命を懸けて産み落とした命が育ち、競走馬としての馴致までさらに1年以上。所有者が決まり、本格的な調教を施されて1年、競走馬として我々競馬ファンの前に姿を見せてから戦うこと1年。

 

馬に関わる人々の4年以上に及ぶ歳月の集大成、それが日本ダービーだ。

 

勝って負け、負けて勝つ。勝ち抜け戦を戦うなか、負けを知らない馬もいる。第86回日本ダービーの主役は無敗で第1冠皐月賞を制したサートゥルナーリア。6月阪神新馬戦から萩ステークスホープフルステークス皐月賞まで目下4連勝中。代打ダミアン・レーン騎手がテン乗りでダービーを勝てるのか。焦点は馬より人。それだけ馬自身は世代屈指の評価ということだ。
 
皐月賞までは無敗だったダノンキングリー。秋の東京開幕週の新馬勝ち、暮れの中山で2勝目をあげ、年明けの共同通信杯で2歳王者アドマイヤマーズを下した。皐月賞ではサートゥルナーリアに破れ、初黒星(3着)。負けはたったひとつ。
 
ヴェロックスは8月小倉で新馬圧勝、野路菊ステークス2着、東京スポーツ杯4着と連敗も冬の京都若駒ステークスを勝ち、再浮上。皐月賞2着もサートゥルナーリアとはタイム差なし。大一番での逆転を目論む。
 
1強+2、3強という図式で語れる第86回日本ダービー。残る15頭の物語すべてを書き記すべきなのだが、スペースの都合でそれはできない。ただ、勝ち負けを繰り返しながらも、この舞台に立つために勝ち抜いてきた精鋭であることは記しておく。

季節はずれの30度超の猛暑、10万人を越える大観衆のプレッシャーを一身に受ける18頭。パドックで悠然としていた断然人気のサートゥルナーリアがゲート裏でエキサイト、その影響かスタートで痛恨の出負けを喫してしまう。これまで好位にすんなりつけるセンスの良さを自ら消してしまった。
 
青葉賞を強気な逃げで勝ちきったリオンリオンは若武者横山武史騎手に乗り替わっても迷うことはない。外枠から先手を奪う。京都新聞杯で逃げてゴール寸前まで粘り通したロジャーバローズが1番枠を利してインから番手へ、皐月賞では競馬に参加できなかったサトノルークスが内枠から池添謙一騎手が手綱を押しながら3番手にとりつく。その内からスタートを決めてハナに立ちそうだったエメラルファイトがやや引き気味に追走。
 
日本ダービーの難所である1角をこの4頭は後ろを引き離し気味に通過。離れた位置にダノンキングリー、クラージュゲリエ、ヴェロックスが3頭横並びで追走。サートゥルナーリアは中団馬群の後ろ、やや外を回って通過していく。
 
先頭リオンリオンはロジャーバローズやサトノルークスをコーナーでグングン離す。この間のラップタイムは11秒4-11秒4-11秒6。息を入れようと抑える素振りを全く見せない走りはレースを厳しくする。1000m57秒8はここ数年の日本ダービーでも突出して速いペースだ。
 
中団馬群はこのペースに縦長になっていく。その先頭のダノンキングリーは戸崎騎手が馬を懸命になだめ、外につけたクラージュゲリエもダノンキングリーの前に出ようとはしない。直後のインにマイネルサーパス、外にヴェロックスが続き、ランフォザローゼス、シュヴァルツリーゼが併走、その直後にサートゥルナーリアがニシノデイジーと並んでいる。後方では馬群が形成され、レッドジェニアル、ナイママ、タガノディアマンテ、アドマイヤジャスタ、ヴィント、メイショウテンゲンが固まっている追走する。
 
3角手前では逃げるリオンリオンが大きなリードをとり、ロジャーバローズがポツンと2番手、3番手のサトノルークスは早くも手綱が動き出す。
 
4角でリオンリオンはロジャーバローズを引き離そうと早めにスパートを開始するも、ロジャーバローズはリオンリオンとの差をじわりと詰めていく。
 
そして、最後の直線。1/7071頭を決める正真正銘最後の攻防がやってくる。
 
先頭リオンリオンに迫るロジャーバローズ。それを追いかけるダノンキングリー。外に出してサートゥルナーリアも必死で前を追う。ヴェロックスはサートゥルナーリアを意識しながらその内に入ってくる。
 
ダービー馬まであと400m。
 
ロジャーバローズがリオンリオンを捕らえて、先頭に変わる。その2馬身後ろからダノンキングリーがやってくる。脚色で上回るダノンキングリーがロジャーバローズを捕らえにかかる。大外のサートゥルナーリアが一気に3番手に駆け上がる。
 
ダービー馬まであと200m。
 
ロジャーバローズが浜中俊騎手の渾身のステッキに応えて再びダノンキングリーを突き放さんとする。苦しそうに蛇行するダノンキングリーを戸崎騎手が必死に矯正し、ロジャーバローズに再び迫る。この2頭の攻防に3番手にあがったサートゥルナーリアは迫りそうで迫れない。過去4戦で見せたことがない余裕のない走りだ。インからヴェロックスが3番手にあがってくる。
 
ダービー馬まであと100m。
 
寄せつけないロジャーバローズ、迫りくるダノンキングリー。2頭の馬と2人の騎手が死力を尽くしたデッドヒート。浜中騎手がステッキを素早く左右に持ちかえ、ロジャーバローズがロスせず走れるよう矯正しつつ、喝を入れる。戸崎騎手は全身を使って馬を追い立てまくる。

ダービー馬まであと数完歩。
 
東京競馬場が揺れるほどの大歓声にかき消されたが、2人とも馬上で大きな声をあげているようだ。心と体、駆使できるものその全てを使いながら馬を励ます。ゴールへ粘り切ろうとするロジャーバローズと最後の最後にハナだけでも交わそうとするダノンキングリー。2頭のハナ先はほぼ同時にダービーのゴール板にたどり着いた。
 
長く険しいクラシックロード。その終着地点に先んじて飛び込んだのはロジャーバローズと浜中騎手だった。ダノンキングリーと戸崎騎手の猛追をクビだけ凌いでいた。
 
第86代日本ダービー、その頂点に立ったのは、ロジャーバローズだった。勝ち時計2分22秒6(良)は日本ダービーの歴史を変える大レコードだった。

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1~3着馬コメント

1着ロジャーバローズ(12番人気)

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京都新聞杯2着、日本ダービーではまず通用しないと考えられた臨戦過程だけに評価は低かった。しかし、絶好枠の1枠1番、先行型のこの馬にとって願ってもない枠順、そして、リオンリオンがある程度厳しいラップを踏む競馬は京都新聞杯の内容を考えても心肺機能の高さで勝負するロジャーバローズにとって好都合だった。実際、1番枠を活かしてロスなく2番手につけ、飛ばすリオンリオンとの間合いを計る競馬、後ろを気にしない無欲な姿勢が馬に実力以上の力を出させた。3番手サトノルークスが早めに脱落したが、ロジャーバローズは手応えよくリオンリオンを捕らえて抜け出した。心肺機能の優秀さがなければできない競馬だった。運と実力、そして騎手の胆力すべてが呼んだ結果だった。浜中俊騎手はここ数年は乗り馬に恵まれない時期に陥っていたが、GI裏開催の競馬場で磨き込んだ腕はさらに騎手としてワンランク上に押しあげていた。それが見事に開花した、第86回日本ダービーだった。

 

2着ダノンキングリー(3番人気)

東京競馬場になればと思わせた共同通信杯での走り通りの競馬を披露。サートゥルナーリアを意識しすぎず馬とのリズムを優先させ、好位で懸命に折り合いをつけた戸崎圭太騎手の腕は見逃せない。折り合いが難しいダノンキングリー、2400mで先行させるのは勇気の必要なことだ。万が一、折り合いを欠けば自滅しかねない状況にもかかわらず、前へ行って馬をなだめる、簡単なことではない。それだけに最後の最後は何とか届いてほしかったという思いもある。昨年に続いて日本ダービー2着。戸崎騎手の無念は言葉にできないものがある。ゴール前、やや馬が苦しがった分の差であり、実力に屈したわけではない。

 

3着ヴェロックス(2番人気)

ダノンキングリーとは対照的にサートゥルナーリアを意識した競馬を展開。その出遅れに合わせるようにやや位置取りを下げてしまった。これは川田将雅騎手らしいテーマを意識し、意図を持った騎乗だった。結果論として、サートゥルナーリアへの意識から前にいる馬を逃したことになったが、大一番でなにをなすべきかという使命を全うする姿は称賛せねばならない。最後はサートゥルナーリアを交わしており、戦略は間違いではなかった。


総評

前半1000m通過57秒8、前半1200m1分9秒8、後半1200m1分12秒8。前後半のラップ差3秒は過酷なレースだった。結果として4角2番手のロジャーバローズ、3番手のダノンキングリーで決まったわけだから、この2頭の強さは文句なしだ。ハイラップは後方に有利に写るが、中距離戦で厳しい流れになると、後方で溜めようにも溜められない。全馬脚が溜まらない競馬により、最後の直線はひたすらスタミナ勝負、我慢比べとなった。ロジャーバローズの母リトルブック、その姉はドナブリーニ。ご存知、ドナウブルージェンティルドンナ姉妹の母だ。この姉妹はいずれもスピードと持続力に優れており、それを支える心肺機能の素晴らしさにポイントがあった。リオンリオンが作った激流がロジャーバローズに眠っていた力を呼び起こし、サートゥルナーリアの兄リオンディーズエピファネイアが抱えた精神的な危うさが日本ダービーの大観衆を前にサートゥルナーリアに目覚めてしまった。血の奥底にあるものさえ露呈させる、日本ダービーはそんなレースでもある。

 

 

(勝木淳)

(写真・かぼす)

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