【重賞回顧】第69回安田記念(GⅠ)

競馬ファンは考える。さらに深く、競馬の魅力を掘り下げて

 

ローテーション革命。

昨今の競馬における流行語のひとつ。その旗手的な馬がアーモンドアイ。シンザン記念から桜花賞オークスから秋華賞、そしてジャパンカップ、前哨戦を叩いて本番を迎えるという固定概念を吹き飛ばす快進撃が革命の風を運んだ。必要最小限にレース数を抑える戦略、その裏側には常に全力を出し切ってしまうアーモンドアイの生真面目さと体質の弱さがあるとも考えられる。

国技師(くにわざし)なんて呼ばれることもある国枝栄調教師の戦略力がこれまで革命を成功させてきた。

年明け緒戦に選んだドバイターフ(1800m)圧勝を受けて、2400mの凱旋門賞を大目標にする可能性は低く見積もられていたが、ではどこへ行くのか、今年の大目標はどこなのか。注目を集めた去就、その結果、春は安田記念出走となった。その意図は一体なんだったのだろうか。競馬ファンは考えた。アーモンドアイの安田記念出走の意義とはなにかを。

 

ダノンプレミアムはダービー以来の出走に金鯱賞を選んだ。2000m路線を選択したかと思われたが、陣営は大阪杯を見送り、マイラーズカップから安田記念というローテーションに決めた。金鯱賞を危なげなく勝ったダノンプレミアムはなぜ、安田記念に目標を切り替えたのか。3歳時から詰めて使えない馬だけに、大阪杯では体調が整わないと考えたのだろうか。競馬ファンは考えた。マイラーズカップから安田記念という臨戦は復帰当初から考えられたものだったのかと。

 

4歳のトップオブトップ、アーモンドアイとダノンプレミアムの出走、香港最強マイラーのビューティージェネレーションの予備登録、安田記念は世界最強マイラーを決める舞台になるのかとワクワクさせた。連勝記録を重視したビューティージェネレーションが回避したものの、昨年2着の快速牝馬アエロリット、東京新聞杯で好時計を叩き出したインディチャンプ、昨秋のマイル王ステルヴィオ、距離短縮が不気味な天皇賞(秋)2着サングレーザー、ペルシアンナイトに昨年覇者のモズアスコット。

2強に次ぐメンバーも安田記念らしく骨太な猛者たちばかりだ。

春の東京競馬場5週連続GⅠのラスト、安田記念がはじまる。

 

中距離を走る馬にとってマイル戦での最大の課題は流れに乗ること。つまり、スタートにある。距離が短くなれば、テンのダッシュ力は速くなり、マイル戦と中距離戦では顕著に違いがある。まして、ベストマイラー決定戦、スタートで後手を踏むわけにはいかない。

 

しかし、このスタートでアクシデントが起こる。

大外枠のロジクライがゲートが開いた直後に内に流れてしまい、ダノンプレミアムやアーモンドアイが後手に回ってしまったのだ。マイル戦でも好位に乗れるダノンプレミアムにとっては痛い不利だ。

 

対照的にスタートを決めたグァンチャーレに対して内から競りかけ、ハナを奪ったのはアエロリット。この馬の戦法に迷いは一切ない。ベストは東京マイルの持久力戦であり、今年も同じような流れを作り出す。控えたグァンチャーレ、3番手にインディチャンプと先頭からここまではバラけて追走。

 

12秒2-10秒9-11秒4、前半600m34秒5はアエロリットにとってはマイペース。3番手インディチャンプにロジクライロードクエストらが押しあげ、インにサングレーザー、モズアスコット、外からエントシャイデン、フィアーノロマーノが追走。スタート直後にアクシデントがあったダノンプレミアムがジワジワと後方から中団後ろまで押しあげ、アーモンドアイはその直後のイン、ターゲットを絞っているようだ。

 

11秒3-11秒2とラップが続く。アエロリットは決してペースを緩めない。それどころか3、4角で加速していくのだ。後半5ハロンのロングスパート、自身がもっとも得意とするハイラップの我慢比べへと後ろの15頭を誘っていく。

 

11秒1 

さらに加速し堂々と先頭で最後の直線を迎えたアエロリットに外から追いかけるグァンチャーレが差を詰める。後方のダノンプレミアムは一瞬バランスを崩す。アーモンドアイはモズアスコットやインディチャンプの後ろで進路を失う。

 

11秒2

アエロリットはグァンチャーレに並ばれてもスピードが落ちない。モズアスコットとの叩き合いに競り勝ったインディチャンプが猛追する。外に切り替えたアーモンドアイはいつものように手前をさかんに変えながらも伸びてくる。インに拘ったサングレーザーも懸命に差を詰めようとする。

 

最後の200m、ラップは11秒6。坂をあがり、アエロリットはほんのわずかではあるが、ラップを落とす。ここから彼女の我慢強さ、本領の発揮である。グァンチャーレを競り落としたところにインディチャンプがやってくる。あっさり交わされるかと思われたが、アエロリットはインディチャンプが来ると、最後の力を振り絞るように抵抗を試みる。さらに大外からアーモンドアイも3番手から追ってくる。

インディチャンプ、アエロリット、アーモンドアイ。ゴール板まで続く最後のデットヒート。驚異の粘りを発揮したアエロリットをクビだけ差し切ったのはインディチャンプ。2着はアーモンドアイをハナ差凌いだアエロリット。アーモンドアイは3着に敗れた。時計は1分30秒9(良)。

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1~3着馬コメント

1着インディチャンプ(4番人気)

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ダノンプレミアム、アーモンドアイの2強を倒すための競馬、それが福永祐一騎手が掲げたテーマ。スタートを決めて前に行き、好位のインをとり、外から馬が来ても動じずにポジションを下げて馬を落ち着かせる。インディチャンプも福永騎手の無駄がないレース運びに見事に応え、その分、最後の直線で弾けることができた。東京新聞杯の内容からも東京マイルはベストな舞台であり、適性と戦略が見事に噛み合った勝利だった。それにしても意外性のステイゴールドは今度はベストマイラーを輩出、その血の裾野を広げた。アエロリットが作る加速し続けるラップ構成はステイゴールド産駒のインディチャンプがもっとも力を発揮しやすかったのかもしれない。

 

2着アエロリット(4番人気)

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昨年に続きまたも2着。東京のマイルGⅠで常にレースを作り、主役級の走りを披露しており今度こその想いは強かっただけに無念だ。後半5ハロンから最後までひたすら加速していく。この馬のラップ構成は見事という一言に尽きる。自らのスタミナを削りながら必死に最後まで先頭を守ろうとする、そんな彼女の誇り高き走り、足りないのは金メダルだけだ。

 

3着アーモンドアイ(1番人気)

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スタート直後の不利も痛いが、これまでいい位置で流れに乗れるスタートが今回は遅かった点も見逃せない。やはり、マイルのスタートは速く、センスの塊でもあるアーモンドアイですら対応できなかった。後方から進んだことで終始、馬群のなか。最後の直線も加速を促したい地点で前が壁になってしまった。進路を求めて外に出てからは彼女らしい加速が見られたが、仕掛けがワンテンポ遅れたことが致命傷となり、上位2頭に及ばなかった。それでも後方から伸びてきたのはこの馬のみであり、その脚力の片鱗は披露。悲観することはない。

 

総評

最後の直線でバランスを崩して最下位入線後に下馬したダノンプレミアムの結果とは結びつけられないことははっきり明記した上で書くが、ローテーションの難しさを露呈した安田記念だった。トップクラスの戦いとなれば、何ヶ月も前から狙い済ました臨戦過程を描き、その理想通りに馬の体調を最高潮に持っていかなければ、勝てないということだろう。アーモンドアイもドバイ帰りという難しい過程を考えれば、持ち前のセンスでよくマイル戦にフィットしてみせたというのが真実だろう。あのアーモンドアイなら当然勝てるという我々ファンの思惑が予想以上に難問だったことをこのレースは教えてくれた。

競馬ファンは考える。とにかくよく考える。だが、ときに理想を大きく描きすぎるところがある。競馬に夢を求める競馬ファンの健気な一面でもあるが、やはり競馬ファンはもっともっと考えなければいけない。考えることが大好きな我々に競馬の難しさを教えたレースであった。

 

 

(勝木淳)

(写真・かぼす)

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