【重賞回顧】第60回宝塚記念(GⅠ)

競馬に想定内なし。予定調和をぶち破る若武者レーン騎手

 

芝2200mのGIは秋のエリザベス女王杯とサマーグランプリ宝塚記念。俗に非根幹距離(400の倍数が根幹距離、400で割れない距離が非根幹距離)で行われるGIレースはこのふたつのみ。1400mや1800mと非根幹距離に強い馬がいるが、2200mもまた同様。1400mや1800mとの違いはGIレースが設けられていることだ。

 

だからだろうか。エリザベス女王杯宝塚記念もGI勝ちはその1勝のみ、残る根幹距離GIでは強い競馬はするが、勝ちきれないという馬が多い印象がある。宝塚記念メイショウドトウテイエムオペラオーに勝ち、アーネストリーサトノクラウン、ミッキーロケットなど近年も唯一のGIタイトルが宝塚記念という馬は多い。

 

サマーグランプリは他のGIレースにない独特な難しさがある。

 

最終的に1番人気に支持されたのはキセキ。芝2200mは未勝利で、3歳すみれS3着、宝塚記念8着、いずれも阪神競馬場だが、昨秋に川田将雅騎手が乗るようになって戦法は一変。今のキセキなら合わないはずがない。

 

対抗格はGI2勝レイデオロ。2200mではオールカマー勝ちがある。ドバイ以来の出走だが、昨秋はキセキに2戦2勝と実績は最上位。

 

3番手には唯一の牝馬リスグラシューが支持された。同じ2200mGIエリザベス女王杯で悲願のGIタイトルを奪取と距離に不安はない。

 

最強の1勝馬エタリオウは2200m戦初出走ながら、父ステイゴールド宝塚記念特注血統であり、クセ馬請負人の横山典弘騎手の騎乗も注目された。

 

ステイゴールドといえば、芝2200m未勝利のスティッフェリオ、AJCC3着、オールカマー近2年連続5着と芝2200m適性があるショウナンバッハもいる。

 

大阪杯の勝ち馬2頭、昨年の勝ち馬スワーヴリチャード(芝2200m初)、アルアイン(芝2200mは重賞で2着3回)など12頭がエントリーした。

 

大阪杯で2番手に控えたキセキが今回は先手を奪うとみられていたが、そのキセキが1番枠からスタートでやや立ち遅れてしまう。キセキの先手を他の騎手も想定していたのだろうか、キセキが後手を踏んでも、ハナを奪おうという馬はいない。キセキの鞍上川田将雅騎手は包まれることを嫌い、手綱を動かしハナを主張する。外枠のリスグラシューに乗るダミアン・レーン騎手はスタート直後から盛んに内側を振り向いて確認していた。スタートで後手を踏みがちなリスグラシューが今日はスタートを決め、インの馬たちの動きを牽制するような余裕を見せている。

 

1角ではキセキはみんなの想定どおりハナに立ち、11頭を引っ張る。そこに続くような馬がいないとみたレーン騎手は外から切り込みながら2番手の位置を奪った。インの3番手におさまったアルアイン、中団のインにスティッフェリオ、その外にスワーヴリチャード。一歩引いたインにレイデオロが追走。

 

前半1000m通過60秒0。マイペースで走るキセキがペースをあげる理由はない。自分のペースでゆったり走っている。中団より後ろにクリンチャー、タツゴウゲキ、ノーブルマーズ、後方にエタリオウ、ショウナンバッハ、マカヒキが追走。古馬中距離のトップどころらしくどの馬も折り合って静かに進む。

 

残り800m地点からキセキはいつものようにじっくりとラップをあげる。11秒6-11秒5と3角からのロングスパートに中団にいた伏兵陣は鞍上の手が早くも激しく動く。ここで突き放したいキセキだったが、2番手にいたリスグラシューはキセキの外を余裕でついていく。アルアイン以下の3番手以下の馬たちも前の2頭に懸命についていくが、直線に入ってすぐにキセキとリスグラシューが後続を置き去りにしてしまう。直線はこの2頭の一騎打ちとなったが、ここで並んでから渋いキセキに対して、リスグラシューは併せ馬には行かず、あえて外に持ち出し、併せない形をとった。1頭で粘り形になったキセキはリスグラシューに思うように抵抗させてもらえなかった。この時点で勝負はあった。キセキに3馬身という決定的な差をつけたリスグラシューが宝塚の大舞台を独占。見事に後続を完封した。抵抗できなかったもののキセキはきっちり2着確保。3着は中団から伸びたスワーヴリチャードが確保した。勝ち時計2分10秒8(良)。

 

1~3着馬コメント

1着リスグラシュー(3番人気)

ここまでハーツクライ産駒の特性を体現する馬も珍しい。ハーツクライは4歳終わりまで後方からいい脚を使ってどこまでという競馬で勝ちきれなかったが、有馬記念で突発的に先行、以後は先行馬としてドバイシーマクラシックを勝ち、英キングジョージ3着という成績を残した。若い頃はいい脚を使って届かない競馬を続け、ある日いきなり覚醒、自力で勝つ競馬をする。リスグラシューはまさにそんな馬。2度の香港遠征を経て、その能力が目覚めた印象。後方が定位置だと思ったリスグラシューの2番手追走に競馬ファンは驚いただろう。ただ、父ハーツクライという事実を思い出せば、誰しも納得だろう。リスグラシューの反撃がいよいよはじまった。

 

2着キセキ(1番人気)

スタートのタイミングが合わず、もっとゆったり先行できた1周目のホームストレッチで急かしたことが致命傷となった。だが、行かなければ、自分でラップを刻まねば持ち味を発揮できない馬であり、強引に先行態勢をとったのは致し方ないところだ。ただし、それがなくても今日は番手にとりついたリスグラシューに完敗の印象。毎回、レースを作り、果敢に攻めている姿には感銘すら覚えるが、そろそろ2着を脱却しなければならない。やはり競馬は勝ってこそ価値があがる。

 

3着スワーヴリチャード(6番人気)

昨年の大阪杯以来、やや存在感が薄れた印象だが、今日は力があるところを披露した。やはり阪神コースはベストな舞台だろう。そうは言っても、伸びてきたのは前2頭の態勢が決した直後であり、つまり勝負そのものには参加できなかった。リスグラシューと同じハーツクライ産駒で、こちらはまだまだ覚醒前の段階なのだろうか。

 

総評

牝馬リスグラシューの意表をつく先行がレースを支配した。スタート直後、キセキが後手を踏んだ状況下で他馬がみんなキセキがハナを奪いに来るのを待っていたのは残念だった。あのキセキが後手を踏んだわけで、それはチャンスではないか。想定内の競馬をしたい気持ちも分かるが、行くチャンスがあって、行ったほうがいい馬が行かずにキセキを待つということは、自らに起こるかもしれない奇跡を放棄したようなものである。

一方、追い込みイメージのリスグラシューで先行態勢をとり、ひたすら他馬の出方を横目でうかがいなら、キセキ以下が行かないとみると、外の2番手につけたダミアン・レーン騎手はその嗅覚というか勝負感覚が抜けていたと言わざるを得ない。この春は東京を中心に大暴れしたレーン騎手は日本ダービーなど異国の地で苦い経験を積み、まさに武者修行をしつつ、結果もきっちり出した。来年の来日も希望しているというが、今度はもっと結果を出すにちがいない。若きレーン騎手に刺激を受けた日本人騎手の奮起に期待したいところだ。

 

 

(勝木淳)

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